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社説・コラム

社説 アフガン復興 日本ならではの支援を

 これで復興を支えることができるのか。肝心なことが抜け落ちている気がしてならない。

 日本政府主催のアフガニスタン復興支援会議で、国際社会は2015年までに総額160億ドル(約1兆2800億円)超の支援を約束した。アフガン政府には腐敗体質の浄化を求め、互いの取り組みを2年ごとに点検していくという。

 「テロとの戦い」を掲げ、米国がアフガンに侵攻して10年余り。米国主導で押し進めてきた軍事力とカネによる支配が、和平をもたらしただろうか。

 状況は悪化する一方である。米軍による誤爆で多くの民間人が犠牲になり、国内の反米感情は高まっている。怒りがまたテロを生む悪循環に陥り、政権から追い落とされたタリバンはまた勢いを取り戻しつつある。

 一方、会議でも指摘されたように、米国が担いだカルザイ政権は汚職にまみれている。必要な支援が行き渡らないまま、国民は干ばつや貧困にあえぐ。失業率は40%超ともいわれる。

 今、最も必要なのは治安回復のための具体的な方策と、国民が生きていくための支援に他ならない。

 タリバン穏健派との政治的和解こそ、復興につなぐ最大の鍵だ。14年末には、米軍をはじめとする国際部隊が完全に撤退し、治安維持もアフガン政府に委ねる。カルザイ政権とタリバンとの和解を促す国際的な枠組みづくりを急ぐべきだ。

 同時に、日本が果たすべき役割があらためて問われよう。

 アフガンは「親日国」で知られる。先進国の中では唯一、「中立」的な立場にある国として評価する見方もあるようだ。被爆国であり不戦を誓うわが国だからこそ仲介者になり得る。日本ならではの使命を、政府は自覚すべきではないか。

 民生支援についても、独自策を打ち出すべきである。

 民主党に政権が移った09年が転換点のはずだった。新政権は日米同盟下で余儀なくされた自衛隊による給油活動を中止する。代わりに提示したのが「5年で最大50億ドル」規模の巨額の支援金だった。

 治安の向上やタリバン元兵士の社会復帰策などに充てられてきたという。だが一般国民の暮らしにどれだけ還元されたのか。緻密な検証が必要だ。

 今回、玄葉光一郎外相は今年から5年間でアフガンに最大30億ドル、パキスタンなど周辺国に計10億ドルを支援するとした。暮らしの復興を最優先し、じかに届く支援を進める必要がある。

 現地に溶け込み、人々の声を聞きながら民生支援に尽力してきた非政府組織(NGO)などの取り組みこそ指針となろう。

 「百の診療所より一本の用水路を」。NGOペシャワール会は、砂漠化で干からびた農地に水を戻す活動に取り組む。豊かな農業国だったアフガンの本来の姿を取り戻すための挑戦であり、きっと恵みの循環をもたらすだろう。このような民間の実践を支えることも政府の役割に違いない。

 地道な支援活動は、身近な所でも根付いている。国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所が復興支援のため、現地から公務員らを招いて人材育成に取り組む。平和構築のために「被爆国ならでは」のまなざしを、アフガンに注ぎたい。

(2012年7月10日朝刊掲載)

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