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社説・コラム

食の安心 厚労省の三浦部長に聞く

■セシウム新基準 正確な情報重要

 福島第1原発事故に伴う放射性物質の放出や牛の生レバー(肝臓)の提供禁止など、食の安心・安全をめぐる問題が後を絶たない。国の基準策定を担うのは、広島県福祉保健部長も務めた厚生労働省の三浦公嗣食品安全部長(55)。シンポジウム(7日)参加のため広島市を訪れた三浦氏に、食品行政の現状を聞いた。(桑田勇樹)

 ―食品中の放射性セシウムの基準値をことし4月、大幅に厳しくしました。狙いはどこにありますか。
 穀類や野菜は今、1キロ当たり100ベクレルを超えると出荷できない。その厳しさは原発事故の6日後に設けた暫定基準値の5倍だ。乳児向け食品については、一層厳しく1キロ当たり50ベクレルとした。内閣府の食品安全委員会が、放射線の専門家の意見も聞いて決めた。

 そもそも暫定基準値は被曝(ひばく)線量が年間5ミリシーベルトを超えないよう設定し、十分に安全な基準だったと思う。新基準値はさらに安全性を高めた。これ以上厳しくすると、市場に十分な量の食品が回らなくなる恐れがある。

 ―内部被曝による健康への影響は未解明です。新基準値で本当に安全でしょうか。
 放射性物質のリスクは、なければない方がいい。減らしていく努力も必要だ。被爆地広島に勤務した私も強くそう思う。ただ、新基準値では発がんリスクは測定できないほど低い。当面はこの基準を使うことになる。「大丈夫だ」と言うだけでなく、正確な情報を伝えることで安心につなげたい。

みうら・こうじ
 1957年生まれ。慶応大医学部卒。83年厚生省(現厚生労働省)入省。2001~03年に広島県福祉保健部長。厚生労働省老人保健課長などを務め、11年8月から食品安全部長。愛知県出身。

福島第1原発事故に伴う食品の出荷制限
 魚や野菜など一般食品は放射性セシウムが1キロ当たり100ベクレルを超えると出荷できない。粉ミルクなどの乳児用食品と牛乳は同50ベクレル、飲料水は同10ベクレル。暫定基準値に比べ20~4倍厳しい。一般食品の中でもコメと牛肉は経過措置があり、新基準の適用は10月から。内部被曝はメカニズムが完全には解明されておらず、基準値を下回る食品でも健康に影響を及ぼすとの指摘もある。

(2012年7月10日朝刊掲載)

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