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社説・コラム

社説 山口知事選告示 県の将来 議論深めたい

 山口県知事選がきのう告示された。4期務めた二井関成知事が引退するのに伴い、16年ぶりに県のリーダーが交代する。

 立候補を届け出たのはいずれも無所属新人の4人。二井県政をどう継承するのか、あるいは方針転換するのか。17日間の選挙戦を通して県民に具体的に訴えてほしい。

 二井知事は国体や国民文化祭などの大型イベントを成功させるなど、地域活性化を図った。総じて県政運営は手堅いと評価されてきたようだ。

 しかし、県内では雇用への不安が影を落とす。

 今年に入り、半導体企業の工場が閉鎖されたり、譲渡または閉鎖の方針が発表されたりしている。県は雇用確保など緊急対策を講じているが、解決のめどはたっていない。

 県内経済はこれまで、基礎素材を中心とする重厚長大型の製造業が支えてきた。超円高や新興国との競争など環境の変化に対応した転換をある程度進めてきたが、十分とは言い難い。

 大学進学などで地元を離れた若者が帰郷して就職できる、多様な雇用の受け皿づくりが求められる。県政の最重要課題として引き継がれるべきである。

 今回の知事選は、全国的な注目を集めている。東日本大震災による福島第1原発事故から1年4カ月。ほぼ唯一といえる新規立地計画、中国電力上関原発の建設予定地を抱えているからだ。

 地元誘致で計画が浮上して30年。県はこれまで国策に協力する形で受け入れてきた。

 ところが福島の事故は、状況を一変させた。新規立地は極めて困難な見通しとなっている。

 きのうの第一声を聞く限り、上関原発建設を従来計画通り進めるべきだと訴える候補者がいなかったのも当然だろう。

 ただ、長らく地元を二分してきた問題である。「脱原発依存」を掲げる国のエネルギー政策の具体化に向け、地域からの声を反映させるために活発な論戦が求められる。

 もうひとつ、安全保障をめぐる問題が注目されている。米軍が今月下旬にも、米海兵隊岩国基地に垂直離着陸輸送機MV22オスプレイを先行搬入する計画である。

 開発段階から死亡事故を繰り返しており、住民は反発。二井知事も搬入には反対の姿勢を示している。本格運用が始まった後も、飛行訓練などに対する危険性への懸念は続く。

 だがきのう、候補者が基地問題に言及した部分はごくわずかであった。住民の生命と安全を守る責任をどう果たしていくのか、もっと語るべきではなかろうか。

 独自性と自立を競う、地域主権の時代である。それだけに、かじ取りを担うリーダーの存在感は増している。むろん、山口県も例外ではない。

 東部は広島県、西部は九州との交流が深く、ともすれば一体感に欠くともいわれてきた。しかし瀬戸内海と日本海、響灘に面した県域は、魅力的な自然と歴史の宝庫でもある。地理的にも多彩な文化をはぐくむ可能性にあふれる。

 これらの「宝」をどうやって観光や交流、地域の活性化に生かせるか。知事の手腕が問われる。選挙戦を通じ、県の将来像の議論を深めてもらいたい。

(2012年7月13日朝刊掲載)

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