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社説・コラム

天風録 「論理と倫理」

 電力会社にとって、それこそ譲れぬ「論理」なのだろう。エネルギー政策の将来をめぐる国民世論を把握しようと、政府が各地で開いている意見聴取会。仙台や名古屋市の会場で電力会社員が原発の推進を唱えたという▲発言者は抽選で公正に決めたと国は弁明する。だが人選自体が作為的な「やらせ」では、と会場は騒然となった。フロアからの発言が一切許されないのだから無理もない。これで国民的議論とは聞いてあきれる▲当事者の論理は利害に左右されがち。ドイツ政府はわきまえていたのだろう。福島の事故後に設けた「倫理」委員会は原発関係者を排し、哲学者や宗教家たちが短期集中で意見を交わした▲行き着いた答えは「10年以内に原発から撤退できる」。むろんドイツは石炭資源に恵まれるなど日本とは条件が違う。ただ「技術的にできることは何でもしてよい、とはならない」。結論を導いた論理は示唆に富む▲広島市内でも29日に意見聴取会がある。ほかにも政府は討論型世論調査という耳慣れぬ手法も取り入れ、ちまたの声に耳を傾ける。とはいえ事故の当事国。論理を曲げず倫理を全うするには、国民投票の方がすっきりするのでは。

(2012年7月17日朝刊掲載)

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