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社説・コラム

社説 福島の復興方針 希望につながる支援を

 東京電力福島第1原発事故は、福島県民に計り知れない痛みをもたらしている。この政府の方針から、少しは「希望」が見えてくるだろうか。

 政府は福島復興再生基本方針を閣議決定した。住民が当たり前の暮らしを取り戻すための施策である。生活再建や産業振興などに関わる項目を、約100ページにわたって列挙している。

 大津波や原発事故によって分断された家族やコミュニティーの再生、雇用の確保、必要なインフラ整備など、国は責任を持って取り組むという。

 一つ一つを取ってみれば当然のことだ。だが、これらを確実にかなえていくことがどれだけ難しいか。身をもって感じているのは福島県民だろう。

 復興の第一関門は除染である。方針では、放射線量が高く復興に時間がかかる12市町村については、自然放射線量を除いた追加被曝(ひばく)線量を年1ミリシーベルト以下に抑えるという長期的目標を掲げた。

 だが作業は停滞している。地元メディアが県民に進捗(しんちょく)状況を尋ねた調査では、63%が「進んでいない」と答えた。除染によって出る汚染廃棄物の仮置き場が決まらないためという。

 現在、16万人が避難生活を送る。県外への人口流出は著しく、震災前より5万人以上減った。子育て世代を中心に、帰還を断念する人も増えている。

 県内にとどまる人も、不安は尽きない。「自分に経済力があれば、子どもたちを遠くに避難させられるのに」。2人の小学生を育てる母親はつぶやく。

 そんな中、福島第1原発にほど近い四つの町は集団移転に復興の望みを託す。避難中の住民が1カ所に集まり、帰還まで別の自治体で生活する「仮の町」構想である。

 ただ、移転する候補地探しをはじめ、生活環境の整備など難題が山積みしている。受け入れ先とのあつれきが生じないような配慮も必要だ。

 「仮の町」構想について、国は自治体間の調整役を務めるという。だが今後は、新たな法整備やルール作りも必要になってくるだろう。国には、さらに踏み込んだリーダーシップが求められる。

 復興方針と現実との間にある溝を、地道に埋めていくことこそ国の使命だ。方針では、原子力政策を進めてきた国の責任を明記し、必要な財源を長期的に確保すると誓った。その基本姿勢は忠実に貫かねばならない。

 同時に、県民に希望をもたらす施策をより強化していく必要がある。柱の一つが、経済の再生だ。住民の帰還を促すには雇用の創出が欠かせないだろう。

 ところが、県が強く求めていた企業立地補助金の積み増しは、政府の方針では先送りとなった。他の自治体とのバランスを考慮したようだが、思い切った支援なしに福島の復興は成し得ない。

 「原発に依存しない社会づくり」。県が打ち出した理念を、確実に実現させたい。バイオマスや風力、太陽光など再生可能エネルギーの新たな研究開発拠点として期待できそうだ。

 政府の復興方針を受け、これから県が重点推進計画などの作成に入る。国はしっかり後押ししてほしい。福島が目指す姿は、日本の将来を見据える上でも大きな指針になるはずだ。

(2012年7月20日朝刊掲載)

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