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社説・コラム

社説 オスプレイ岩国へ 強まる憤り受け止めよ

 強まるばかりの憤りと不安を、日米両政府は一体どう受け止めているのか。

 安全性が懸念される米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ。きのう防衛省は23日に岩国基地に陸揚げされると、岩国市や山口県に伝えた。

 これまでの計画通り、沖縄・普天間飛行場への配備前に試験飛行するためだ。地元が再三にわたり中止を求めたのに無視された格好である。市長や知事が強く反発したのも当然だろう。

 今からでも遅くはない。日本政府は米側に陸揚げを強行しないよう迫るべきだ。百歩譲って基地に持ち込んだとしても、動かさずに「封印」する。それが取るべき道ではないか。

 もはやオスプレイは沖縄や岩国だけの問題ではない。

 全国知事会議が岩国への先行搬入に反対し、全会一致で緊急決議したことが、その象徴だろう。米軍は普天間に配備後、列島各地で低空飛行訓練を計画している。日頃は米軍との接点が薄い知事たちも、強い危機感を共有したに違いない。

 かつて原子力空母エンタープライズの佐世保寄港や空母ミッドウェー横須賀配備をめぐり、強い反発が列島に渦巻いた。今回の事態は、それらにも匹敵する国民的な課題といえよう。

 なのに野田佳彦首相は何ら手を打っていないように見える。今週「米政府の方針であり、どうしろこうしろという話ではない」と公言した。民意を甘く見ているとしかいいようがない。

 オスプレイの安全性への疑問は膨らむ一方である。海外では同型機が4月と6月に墜落したほか、今月に入って1機が機体トラブルで緊急着陸した。

 加えて米国防総省系の研究所の専門家が、乱気流や激しい飛行での危険性を警告していたことも判明した。「機体に問題ない」との説明は揺らいでいる。

 墜落事故の調査結果を踏まえ、日本政府として安全性を確認するまでは岩国での試験飛行も控えてもらう。それが防衛省の言い分である。ただ一方で安全確認を待たずに、地上でのエンジン整備は認めるという。

 最初から結論ありきとしか思えない。米軍側の一方的な「安全宣言」を追認するのでは意味がない。せめて危険性を指摘する専門家から、日本が独自に意見を聴くべきではないのか。

 米国の姿勢も首をひねる。自国では安全性や騒音を不安視する住民にしっかり配慮しているからだ。ニューメキシコ州の空軍基地での飛行訓練は、地元の反対運動で延期したという。

 日本国内の不安の声に耳を傾けないようでは到底、「対等の同盟国」とはいえまい。

 さすがに対米関係を重んじる立場からも異論が出ている。とりわけ日米安保に精通する民主党の前原誠司政調会長は首相を公然と批判し、米側との再交渉を求めた。「米国に物を言えないなら日米同盟はおかしくなる」との指摘はもっともだ。

 日米政府は重く受け止め、配備計画を根本から見直してもらいたい。オスプレイは従来の輸送ヘリより速度も航続距離も格段にアップする。ならば自国領のグアムに置いたとしても、役割は果たせるのではないか。

 岩国にはあさって、全国の目が注がれる。市も県も安易な妥協は許されまい。「ノー」を言い続ける覚悟が求められる。

(2012年7月21日朝刊掲載)

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