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社説・コラム

『潮流』 タイミング

■論説主幹 江種則貴

 偶然というタイミングには絶妙なものもあれば最悪の結果を招くときもある。逆に、誰かが意図的に時期を合わせる場合もあろう。さて今回は―。

 今月7日、沖縄県・尖閣諸島の国有化方針を野田佳彦首相が明らかにした。東京都の購入宣言に割り込んだ格好だ。なぜこの時期にと、唐突に感じた人が多かったことだろう。

 その前日、政府の国家戦略会議のフロンティア分科会が「共創の国づくり」と題した報告書を首相に提出していた。「これか」。集団的自衛権の解釈の見直しを求めるくだりを読みながら、そう思った。

 同盟国が武力攻撃された場合に共同で対処する権利として、国連憲章も認めている。しかし政府は平和憲法を踏まえ、「保有しているが行使はできない」権利と位置付けてきた。

 二つの動きを結びつけるのは強引かもしれない。だが先月下旬には日米韓の3カ国が朝鮮半島南方で合同軍事演習を行っている。米空母も出動し、中国をけん制する狙いは明らかだ。

 日本政府は、アジア・太平洋地域を重視し始めたオバマ米大統領の戦略に乗り、東アジアで「集団的自衛体制」を構築しようと考えているのではないか。

 集団的自衛権をめぐる政府の解釈は確かに分かりにくい。素直に行使を認めるべきだと主張する人も少なくない。とはいえ、たがをいったん外せば、自衛隊が戦争に巻き込まれる恐れは一気に強まる。

 時あたかも、「オスプレイ」の岩国搬入が近づく。地元の不安をよそに、この22日夜には12機を載せた運搬船が関門海峡を通り、瀬戸内海に入ってきそうだ。

 こちらは偶然に違いない。94年前の同じ夜、価格高騰に庶民が怒った米騒動が富山から始まった。コメとアメリカのどちらも大事な「米」だが、民が振り回されるのはごめんだ。

(2012年7月21日朝刊掲載)

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