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社説・コラム

社説 東電値上げ 国民目線 絶えず自覚を

 関東地方ではないからといって、決して人ごとで済む話ではない。東京電力の家庭向け電気料金が値上げされる。

 東電が申請した平均10・28%の値上げに対し、政府の審査を経て、8・47%とすることで決着した。

 2ポイント弱の圧縮は、家計の負担を少しでも緩和する観点から消費者庁が審査に加わった一定の成果といえるだろう。

 それでもなお大幅な値上げである。しかも東電には近く、1兆円もの公的資金が資本注入され、実質国有化される。

 東電や政府は、全ての国民に対して経営責任が生じることの自覚が求められよう。赤字が膨らめば国民の追加負担にも直結しかねない。絶えず国民の目線に立って合理化努力を続けてもらいたい。

 今回の値上げ申請は、東電の高コスト体質をあらためて浮かび上がらせた。

 例えばコストの約4割を占める燃料費だ。そもそも原発の停止に伴って火力発電の燃料費がかさんでいることが、値上げ申請の最大の理由である。

 ところが液化天然ガス(LNG)を欧州などに比べて高い値段で調達してきたことが問題視されている。東電は産出国との間で、少しでも引き下げる交渉努力をしなければならない。

 米国産の新しい天然ガス「シェールガス」も安価で知られる。東電は輸入を検討しているようだが、障壁の一つは輸出先を自由貿易協定の締約国に限るという米政府の方針だ。

 ここは政治の出番ではないだろうか。日本政府は米国から輸出許可を取り付けるよう、交渉に本腰を入れるべきだ。

 コストのうち人件費関連は、申請段階では健康保険料の会社負担割合を60%としていたのを一般的な水準である50%に引き下げることになった。管理職の今後3年間の年収削減率も、26%台だったのを31%台にした。

 これらは消費者庁の指摘を受け、値上げ幅の圧縮につなげた格好だ。社員の士気が極端に下がらぬ範囲で、身を削る努力は今後も必要となろう。

 というのも指摘の背景に、これまでの東電の経営姿勢や企業体質に対する消費者の根強い不信感があるからだ。現経営陣は肝に銘じてほしい。

 一方、消費者庁は福島第1原発事故の賠償対応業務などの原発関連を原価に含めるべきではないとも主張した。だが結局、ほぼ申請通りを政府は認めた。

 確かに東電の財務内容が悪化すれば円滑な賠償にも支障を来すだろう。しかし一方で除染や廃炉などの費用もますます膨らむことは間違いない。事故対応全般にかかわるコストを誰が、どんな割合で負担するのか。引き続き国民的議論が必要だ。

 ほかの電力会社も燃料費の高騰が経営を直撃している。

 とはいえLNGが少々高くなっても連動して家庭向け電気料金に上乗せできる「総括原価方式」や「燃料費調整制度」がある。電力会社の地域独占体制とともに、抜本的な見直しを図ってこそ本来の適正コストにつながるはずだ。

 国民目線に立った電力制度改革が不可欠とされるゆえんである。電力小売りの全面自由化や発送電分離も含め、競争原理を働かせながら安定供給を図るための模索を続けるしかない。

(2012年7月22日朝刊掲載)

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