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社説・コラム

天風録 「鈍感力」

 恋愛小説の名手にして医師。渡辺淳一さんの人生指南本が「鈍感力」だ。大学病院時代の体験がもと。上からの小言や周りの雑音に過敏になるより少々鈍い方が長生きする―。5年前に流行語となったのもストレスだらけの時代ゆえか▲せっかくの処方箋も政治が絡むと妙に生臭い。機を見るに敏なライオンヘアの元首相は、人気低迷に悩む後継総理の指南にちゃっかり使った。「目先のことには鈍感力が大事」と。さらに政権の枠を超え、教えを引き継いだのが今の首相かもしれない▲巨大な機体はまるで不気味な生き物のよう。オスプレイ12機がきのう岩国基地に姿を見せた。だが地元や沖縄からの激しいブーイングも首相の胸に一向に響いていないようだ▲海の向こうの同盟国の顔色をうかがい、その小言には敏感。片や国民の声は雑音扱い。これでは鈍感力の使い方を誤っていよう。長生きどころかストレスもたまるはず▲かの後継首相は「KY(空気が読めない)」とも呼ばれてその座を退いた。官邸周りの反原発デモの音も首相は聞こえているはずだが、世の雰囲気を読めているのかどうか。せめて有権者は政治への「敏感力」を高めておきたい。

(2012年7月24日朝刊掲載)

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