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社説・コラム

社説 山口知事に山本氏 批判票の重み忘れるな

 山口県知事選が投開票され、元国土交通審議官の山本繁太郎氏が、新しい県政のかじ取り役に決まった。4期16年務めた二井関成知事の後継をうたう。

 脱原発や自然エネルギーの活用を掲げて県政刷新を訴えた飯田哲也氏の追い上げを、何とか振り切った。変化より現状維持を求める有権者の方が多かったとの見方もできようか。

 もともと自民党の衆院議員候補だった山本氏。二井氏の路線の継承に加え、「保守王国」の意地にかけて自民などが展開する組織選挙の後押しを受けた。いわば二つの「みこし」に乗ったことで、知事の座を射止めた格好になろう。

 山口県では6代続いて官僚出身の知事となる。だが今は「国とのパイプ」にあぐらをかいていられる時代でもない。立候補準備が遅れた飯田氏が善戦した背景には、その点への批判もあるのではないか。山本氏は謙虚に受け止め、今後の県政運営に当たってもらいたい。

 今回の知事選は、全国区の関心事でもあった。何より国のエネルギー政策の行方とも連動する上関原発計画があるからだ。さらには期間中、米海兵隊のオスプレイが岩国基地に陸揚げされたことでも注目を集めた。

 とはいえ山本氏はこの二つの問題について、演説などで触れることは少なかったようだ。むしろ陣営として、争点化を避けた印象もある。しかし知事となれば、はっきりした答えを出していく必要があろう。

 まず上関原発である。「凍結」としているが、白紙撤回を明言した他候補に比べて歯切れの悪さは否定できまい。県知事が中国電力に交付した海面埋め立て免許の期限切れが10月に迫る。国策任せではなく、県として原発にどう向き合うかがこれまで以上に問われよう。

 オスプレイに関しても同じことがいえる。山本氏は受け入れ拒否を鮮明にした二井氏の姿勢を支持するという。安易な妥協はせず、住民の不安解消に努める責任があるのは当然だ。その上で、基地問題に取り組む熱意を、自らの言葉でもっと具体的に語るべきではないか。

 というのも目の前のことだけではないからだ。任期中の2014年は米空母艦載機の岩国移転が予定される。二井氏は「沖縄の普天間問題の進展がなければ認めない」とするほか、オスプレイ問題の展開次第で協力姿勢も見直すことを示唆した。

 現知事の路線を継ぐ、というなら国や米軍とも対峙(たいじ)していく覚悟が求められよう。

 懸案は、ほかにも山積する。比較的堅実とされてきた県財政だが、この16年間で借金は2倍に膨らんだ。さらに高齢化の進行ぶりは「全国よりも10年早い」と指摘されている。

 また、平成の大合併の負の側面も見過ごせない。合併で町村役場が支所になり、職員数も減って災害時などに不安を残す。

 こうした問題は単なる「継承」では済まないはずだ。時には前例にとらわれず、新鮮な発想で懸案に切り込む。そんな突破力こそ必要となろう。

 もはや国と協調し、その施策によって立つだけで地方自治の現場がうまくいく保証はない。むしろ国の仕組みを地方発の熱意とアイデアでつくり直すぐらいの気構えがほしい。その意味でも、新知事の力量が試される。

(2012年7月30日朝刊掲載)

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