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社説・コラム

『記者縦横』 復興の軌跡 市民の財産

■報道部 野田華奈子

 写真の一枚一枚に、凝縮されたドラマがあった。原爆の惨禍から、人びとや街はどのように再生したのか。本紙朝刊に連載した「復興の風」では、被爆後から1950年代までに撮影された写真から軌跡をたどった。

 工事が進む平和大通り、活気を取り戻した商店街、養護施設の子どもの笑顔…。読者提供を含む計26点を紹介した。6月末から約1カ月間の連載期間中、22人が写真や情報などを寄せてくださった。心から感謝している。

 写真に収められた人や建物を手掛かりに、当時を知る関係者を捜したが、歳月の壁は予想外に厚い。「3週間前に亡くなったんよ」と告げられ、肩を落としたこともあった。被爆者や復興に携わった人々の生の言葉を紙面に刻み続ける使命を、かみしめた。

 復興が進んだいまだからこそ、当時を振り返ることができる。取材した人の多くは被爆後、無我夢中で日々を送ったはずだ。家族を失い、心身の傷が癒えない中で抱いた希望。それが平和大通りであり、スポーツであり、商店街の活気だった。

 写真からは復興する街並みへの期待や、故郷を慈しむ心が伝わってきた。まだ家庭に眠る写真や資料も多いだろう。広島の「成長記録」を整理し、伝えることは、きっと、市民の財産と誇りになる。

 広島の歩みを振り返る時、東日本大震災の被災地を思う。明日を築く知恵を、皆で出し合うべきだ。めぐり来る8月6日。人間の生きる力をあらためて信じたい。

(2012年7月30日朝刊掲載)

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