×

社説・コラム

社説 原発意見聴取会 これで結論出せるのか

 脱原発依存をどこまで、どれだけのスピードで進めるべきか―。政府が唱える「国民的議論」がこれで深まったとは到底思えない。

 2030年の原発比率をめぐる意見聴取会がおととい、広島市内であった。

 福島第1原発事故を受け、政府は新たなエネルギー政策の策定を迫られた。国民の声を取り入れようと、政府は全国11都市で聴取会を順次開いている。

 議論の軸は、政府のエネルギー・環境会議が提示した原発比率の選択肢だ。早期全廃を目指す0%、「40年廃炉」ルールを順次進める15%、原発の新増設を伴う20~25%、の3案からなる。

 広島では117人の応募者から、事前の抽選で12人の発言者が選ばれた。0%支持は6人。15%と20~25%がともに2人。3案以外を選んだ人もいた。

 福島の事故であらためて原爆投下による被爆の後障害に注目が集まった広島。一方、原発についてはこれまで議論が広がらなかった。

 「原発はウラン採掘の段階から特定の人に被曝(ひばく)を強いる」「原発の燃料を加工すれば核兵器ができる。だから原発を残したいという政治家もいる」「一気になくせば経済が立ちゆかない」。確かに多様な意見が出た。

 政府は、来月12日まで受け付けるパブリックコメント(意見公募)や討論型世論調査という新手法の調査も踏まえ、集約するという。

 政官財一体で推進してきた原発の将来像に、国民も関与すること自体の意義は大きい。それをより確かなものにするには、原発比率を単に並列するだけでなく、核の「平和利用」そのものに踏み込んだ議論が必要になるだろう。

 最悪の原発事故を起こした国が、いかなるエネルギー政策を新たに選びとるべきか。それが国民的議論の前提であり、本来なら「脱原発依存」は最終的なゼロの達成と同義になるはずである。

 だとすれば、0%を選択肢の一つにとどめたこと自体、政府の本気度が問われよう。

 いつまでに脱原発を達成するか、という議論の筋立てもあり得たのではないか。

 気掛かりなのは大飯原発の再稼働で見られたように、原発依存度をめぐる議論が原発の安全性と必要性、という図式になりがちなことである。だが、フクシマの教訓はそれだけではなかった。

 大量の核物質を扱う限り、ウラン採掘や原発内労働での被曝は避けられない。放射能が無差別に住民の古里を奪う危険もつきまとう。高レベル放射性廃棄物の最終的な行き場も決まらないままだ。こういった問題を抜きにして原発問題を議論しても、あまりに表面的だ。

 政府は8月中にも「革新的エネルギー・環境戦略」を策定するとしてきた。ここにきて、経済界などから「拙速」との批判が出たことから延期する案も浮上している。

 エネルギー政策の方向付けを、安易に先送りするべきではない。かといって拙速でも禍根を残すだろう。これを機に幅広い議論につなげられないか。

 当然ながら、議論の間は原発再稼働に向けた手続きをストップさせるのが大前提である。

(2012年7月31日朝刊掲載)

年別アーカイブ