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社説・コラム

社説 防衛白書 民意の動向なぜ触れぬ

 書きたいことは書くが、都合の悪いことにはふたをしている。そんな印象を抱かざるを得ない。おとといの閣議で了承された防衛白書である。

 昨年同様、目を引くのが中国の「脅威」についての記述だ。日本を取り巻く安全保障環境を記述する中で、軍事力の強化について詳細に分析する。

 艦艇部隊が活発化し、太平洋進出が常態化しているとした上で空母保有への動きも指摘。「より遠方の海域で作戦を遂行する能力の構築を目指している」と見立てている。

 確かに尖閣問題などを含め、このところの中国の動きは見過ごせない。白書を通じて、けん制した格好になる。

 さらには中国の軍事力を理由に、防衛力強化や日米同盟の緊密化を図ろうと防衛省は考えているのだろう。

 ただ白書とは単なるプロパガンダではない。1年の動きを検証し、あるべき政策を国民にきちんと伝えていく。そんな役割があるはずだ。

 その点、防衛省にとって当面、最大の懸案である米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイに関する記述があまりに乏しいことは理解しがたい。

 先月、岩国基地(岩国市)に12機が陸揚げされた。日米政府による「安全確認」を待って試験飛行し、普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に移る手はずになっている。

 しかし機体の安全性に疑問が残るほか、列島各地での低空飛行訓練への不安もあって反対が広がっている。まさに日米安保体制を揺るがしかねない政治問題になっているといえよう。

 なのに白書がオスプレイに触れたのは2分の1ページ分のコラムだけだ。しかも「信頼性および安全性基準を満たすもの」として世界規模で展開・運用しているとの記述である。これまでの反対運動はおろか、4月と6月の同型機の墜落事故にすら触れていない。

 普天間への配備計画についても「6月29日に米国から通告があった」としているだけ。これでは不安を抱く住民の感情を逆なでしよう。

 防衛省はオスプレイ陸揚げなどを詳述しなかったことについて「6月末までの動きを書くものだから」と言い訳しているようだ。理由にはならない。過去には直近の動きを入れるために白書を出すのを遅らせたこともあるからだ。

 もう一つ物足りないのは、普天間の名護市辺野古沖への移転が沖縄県挙げての反対で、暗礁に乗り上げていることに触れていない点である。

 白書では米軍再編の意義について「米国の抑止力を維持しつつ沖縄など地元の負担を軽減する」と相も変わらない理屈を振りかざしたまま。「現行の移設案が唯一の有効な解決策」などとした4月の日米合意の文言を列記するにとどまる。

 米議会からも辺野古移設案を絶望視する声が出ていることを一体、どう受け止めているのだろう。

 これでは日米両政府が手を焼いている問題は、あえて無視していると言われても仕方あるまい。

 防衛政策について丁寧に説明し、国民の理解を得る。そう期待しているのなら白書の作り方から見直してもらいたい。

(2012年8月2日朝刊掲載)

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