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社説・コラム

『大学力』 CG駆使 真実に迫る 広島市立大大学院情報科学研究科 馬場雅志講師

被爆資料展示に新手法

 高さ約16キロ―。原爆投下による広島上空のきのこ雲が、これまでの推定高度の約2倍だった可能性を、2010年2月に導き出した。被爆資料を、立体画像で展示する手法にも挑む。いずれも、コンピューターグラフィックス(CG)を駆使する。「実物にどれだけ近づけるか」。仮想の世界で模索する。(野田華奈子)

 きのこ雲の高さは、「黒い雨」が降った地域をめぐり広島市と県が1988~91年に設置した専門家会議が、高さ約8キロと推定していた。「もし16キロならば、黒い雨とともに放射性物質が広範囲に降り注いだ可能性がある」と、馬場講師は言う。

 原爆投下直後、米軍機が瀬戸内海上空で撮影したきのこ雲の写真1枚を解析した。まず、写真に写る海岸から特徴のある79地点を抽出。1950年の地図で対応する位置を同じように取り、線で結んで3次元の地形データをつくった。

 さらに、パソコン上で地形データの海岸線を写真の海岸線と一致させる作業を繰り返し、撮影位置を爆心地の南東56キロ、高さ8・68キロと割り出した。そのデータを基にきのこ雲の高さを算定した。

 広島市と広島県は2010年7月、黒い雨の健康診断特例区域(大雨地域)の拡大を国に要望。約16キロという推定値は、科学的根拠として提出した報告書の一部に掲載された。

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 「実物を忠実に再現するだけでなく、実物ではできないことができる」。馬場講師はCGの魅力をそう捉える。例えば、原爆資料館に収蔵されている被爆資料。より身近に感じてもらおうと、10年1~3月には、初めて3次元でのデジタル展示を試みた。

 熱線で焼けただれたつぼやすずり、福助人形。実物と見間違うようなCGが、モニターの中で360度回転する。見る位置をずらすと、飛び出すようにも見える。

 実物にレーザーを当て、反射光で形状を計測する装置を使って画像を作成した。色は実物を写真で撮影し、画像に乗せる。普段はガラス越しで触ることができないが、CGはあらゆる角度から見ることができる。

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 現在は、さらに技術を進化させ、多機能端末「iPad(アイパッド)」でも操作できるようにした。原爆の熱線で表面が焼けただれた花びん。画面を触るだけで大きさや向きを自在に動かすことができ、まるで手に取ったように裏側や底まで見える。

 「展示物のそばに端末を置き、画像を動かして見たり解説を読んだりできるようにすれば、より伝わるのでは」。展示方法の可能性を広げると期待する。黒い雨の研究や原爆資料館の展示は、CGが直接浸透している分野ではない。だが、「技術開発のためにも応用分野に目を向けることは必要だ」と考える。

 福山市で、生まれ育った。中学時代、近所の電器店に新しく入ったコンピューターに興味を持ち、毎日通って触らせてもらった。パソコン雑誌から知識を得ていた高校時代にCGに出会い、広島大工学部に進んだ。

 「先生に左右されず、自分がいちばん詳しいという自信を持って研究に臨む気概が大事。進んで試行錯誤でき、新たな発見にもつながる」。将来を担う学生たちに、そうエールを送る。

ばば・まさし
 1968年、福山市生まれ。広島大工学部を卒業後、同大大学院工学研究科修士課程修了。92年、トヨタ自動車に入社し、デザイン部でCG作成などを担当。95年1月から広島市立大情報科学部助手。2007年4月から現職。

(2012年8月6日朝刊掲載)

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