×

社説・コラム

『潮流』 折り鶴再び

■三次支局長 谷口裕之

 川面を漂う広島のとうろう流しとはひと味違う。山里を吹く風に静かに揺れる。

 広島原爆の日を前にした5日夜、三次市三良坂町の三良坂平和公園に約800個の灯籠が並んだ。市などが開く「平和のつどい」。せみ時雨の残る中、ろうそくの明かりに照らされ、絵や文字が浮かび上がった。

 今回、灯籠の装飾には広島市平和記念公園の「原爆の子の像」に寄せられた折り鶴を再活用した。鶴の色紙をちぎり絵にし、「絆」などの文字や、笑顔の子どもたち、地球、ハトなどの絵を描く。保育所園児や児童・生徒、お年寄りたちが世代を超えて取り組んだ。

 折り鶴の活用は、三良坂平和美術館長を務める元泉園子さん(54)らの発案だった。ことし初め、広島市に届く折り鶴を素材にした再生紙がないかどうか、打診したのがきっかけ。館の企画展が念頭にあった。

 「再生紙はないが、折り鶴の提供を近く始めます」と聞いた。「最初の狙いとは違うけれど、ちぎり絵の素材にして灯籠の装飾に使えたら素晴らしい」。早速、申し込み、三次市が譲り受けの第1号となった。

 広島市に届く折り鶴は年間約1千万羽。活用をめぐる論議の末、「市民主体の活動に使ってもらおう」という方向性がまとまったところだった。

 2万6千羽を受け取り、まず一つずつ元の色紙に広げる。それだけの作業だが、何かを再生する喜びを感じた人もいただろう。刻まれた文字に見入ることもたびたびあったという。

 元泉さんは「鶴を折った一人一人の思いに触れることができた」と言う。参加した人から「ただの色紙じゃないんだ」「人と人とのつながりを感じた」との声も届いた。

 平和への思いをつなぎ、再発信する―。折り鶴再生の一つのモデルを示しているのかもしれない。

(2012年8月7日朝刊掲載)

年別アーカイブ