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社説・コラム

社説 島根原発ストレステスト 再稼働の議論まだ早い

 住民の感覚からすれば、なぜ今なのか、首をかしげざるを得ない。中国電力は先週、定期検査で停止中の島根原発2号機(松江市)について、安全評価(ストレステスト)の1次評価を経済産業省原子力安全・保安院に提出した。

 1次評価は、地震や津波に対する原子炉の安全上の余裕度をコンピューターで解析する。東京電力福島第1原発の事故後、政府が原発の再稼働の条件にしてきた。

 中電は昨年7月の保安院の指示に従い、提出に踏み切ったという。あらためて再稼働の意思を示したと受け取れる。

 だが保安院はことし9月に発足する原子力規制委員会に統合されて消滅する。保安院によると、1次評価の扱いは規制委が決めるため、無意味になる可能性もある。再稼働の議論はまだ早いと言うべきだろう。

 中電がまとめた1次評価では、地震は想定した震動の1・69倍、津波は15メートルまで原子炉の安全が保たれるという。

 通常の電源を失い外部からの支援がない状態でも、高圧発電機車などの配備で23日間は原子炉の燃料を冷却できるとしている。これらの評価は既にある設備に基づいている。

 今回初めて提出した中電を含め、これまで9社が原発25基の1次評価を保安院に出した。うち保安院が安全審査を終えたのは3基。既に再稼働した関西電力大飯原発(福井県)の3、4号機も入っている。

 一方、機器や配管が壊れるまで負荷を掛ける2次評価は、全く提出されていない。

 1次評価に反映させた対策だけでは十分ではないと、電力会社自身が認識しているはずだ。

 中電は1次評価以外にも、安全対策を強化している。来年度中の完成を目標に防波壁のかさ上げ工事を進める。

 さらに、2014年度までに事故時の拠点となる免震重要棟を建設する。今後2、3年以内をめどに、放射性物質の放出を抑えるフィルターも設置する。

 大飯原発はこうした原発事故を教訓にした対策が取られないまま再稼働し、激しい批判にさらされている。島根原発の再稼働の議論はせめてこれらの対策を終えてからにすべきだろう。

 加えて、保安院はすべての原発の建設時に直下の活断層を見逃していなかったか再評価することを決めた。今月中にまとめるとしているが、それで十分な評価ができるかは疑問だ。

 島根原発も長く活断層の影響が指摘されてきた。中電はこれ以上ないというくらいリスクを考慮し、きちんと調べてもらいたい。

 規制委が発足すれば、原発の安全基準を根本から見直すことになる。各電力会社は新基準を踏まえ、再度、安全性を徹底的にチェックするしかない。

 そもそも地元の島根県や松江市は原発事故の原因を踏まえた新たな安全基準づくりが不可欠としてきた。事故時の住民の避難計画もまとまっていない。

 島根原発は運転開始から38年の1号機も定期検査で停止している。ほぼ完成した3号機も運転開始が決まっていない。

 中国地方は原発の依存度が低い。猛暑の今夏も火力発電の稼働率を上げて何とか電力を賄っている。時間をかけ原発の安全性を見極めたい。

(2012年8月8日朝刊掲載)

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