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社説・コラム

天風録 「原子力電池」

 火星着陸を遂げた探査ロボットに米国が沸いている。「史上最高の難度」「金メダル級」。ロンドン五輪の熱狂さながらの祝辞が現地報道に躍る。ご同慶のいたりだが、思いもよらない記事に目がくぎ付けとなった▲原子力電池が動力源だとか。それも、折り紙付きの猛毒プルトニウムという。重さ1トン近いずうたいを動かすために結構な量を積んでいる。そう聞けば、あらぬ心配が頭の中をよぎる。打ち上げに失敗でもしていたら…と▲物騒な電池は半世紀前から宇宙大国には重宝されてきたようだ。太陽電池だと、日の光に左右される。長い歳月に及ぶ惑星間の航行にはもってこいなのだろう。「人を火星に送り込む」と勇むオバマ米大統領の前では、万が一の悪夢など取るに足りないのか▲地球からの行き帰りの事故に備え、一応の手を打ってはいるらしい。たとえ大気中に飛び散っても「健康上のリスクは低い」と米航空宇宙局。どこかで聞いたような文句で空恐ろしくなる▲きょう長崎原爆の日。かの地が見舞われた2発目は、広島のウラン型とは別物のプルトニウム型だった。「実験」にさらされた被爆地の一員として、禍々(まがまが)しい毒物から目が離せない。

(2012年8月9日朝刊掲載)

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