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社説・コラム

社説 長崎原爆の日 核廃絶へ連携強めたい

 無差別に命を奪い、長年にわたり人を苦しめ続ける核兵器がなぜ明確に禁止されていないのか―。きのう田上富久長崎市長による平和宣言の中身に、うなずいた人も多いに違いない。

 福島第1原発の事故以来、広島・長崎は「核の平和利用」とどう向き合うかが問われた。両被爆地が、国にエネルギー政策の見直しを求める役割を担うのは当然のことだろう。

 一方で核兵器廃絶の訴えという原点の重みも増している。いまだ世界に残る核兵器は1万9千発。長崎の宣言では、それらを毒ガスや細菌兵器、対人地雷と同様の「非人道兵器」として力強く告発した。国際世論を動かすきっかけにしたい。

 オバマ米大統領が3年前のプラハ演説で「核兵器なき世界」を呼び掛けたのは記憶に新しい。しかし今は閉塞(へいそく)感が漂う。

 イランや北朝鮮の核問題は緊迫した状況が続く。肝心の米国も秋の大統領選を控え、保守派への配慮から戦略核削減計画の具体化が思うに任せないという。選挙次第では、核軍縮の流れが大きく後退しかねない。

 長崎の平和宣言はこうした現状への警告ともいえるだろう。

 廃絶への道筋として世界に呼び掛けたのが、開発から保有まで全てを認めない「核兵器禁止条約」の締結だ。おととしの核拡散防止条約(NPT)再検討会議の最終文書で初めて触れられ、機運が高まりつつある。

 もう一つが北東アジアの非核兵器地帯の創設である。北朝鮮の核問題の打開にもつながるとして、日本政府に被爆国としてのリーダーシップを求めた。

 野田佳彦首相はどう受け止めただろう。きのうの式典あいさつでは歴代首相に倣い「非核三原則の堅持」は表明したが、具体的にどう行動するかは示さなかった。6日の広島の式典でもそうだった。これではやる気を疑われても仕方あるまい。

 また、広島との温度差も気になる。松井一実広島市長の平和宣言は核兵器禁止条約について、自らが会長を務める平和市長会議の課題として簡単に触れただけだった。

 世界5300都市が加わる市長会議。4年に1度の総会が来年、広島市で開かれる。条約の交渉開始に向け、各国政府にどう働きかけるのか。これまで以上に両市が連携し、運動を強化する姿勢が求められよう。

 その点、長崎では市の呼び掛けもあって今春、長崎大に「核兵器廃絶研究センター」ができたのは心強い。核や安全保障の情報を集め、被爆地の理論的支柱として提案する役割も担う。広島市立大広島平和研究所などとの協力関係を築きたい。

 さらに体験を継承する営みにおいても、二つの被爆地が共に取り組めることがあろう。

 長崎市内では爆心地から500メートルの城山小旧校舎が国の文化財になる。被爆建造物では世界遺産の原爆ドームに次ぐという。現存する被爆建物を文化財として残せるよう、両市が一緒に国に働きかける方法もある。

 被爆資料や手記などを「記憶遺産」として掘り起こし、次代に引き継ぐ運動が民間レベルで始まっている。両被爆地挙げて協力すれば、大きなうねりとなるかもしれない。

 さまざまな形で広島と長崎が手を携えれば、原点の訴えの広がりにもつながるはずだ。

(2012年8月10日朝刊掲載)

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