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社説・コラム

社説 李大統領竹島入り 強硬姿勢 容認できない

 日韓関係に打撃を与えることにしかならない。到底容認することはできない。

 韓国の李明博(イミョンバク)大統領がきのう、日韓両国が領有権を主張する島根県の竹島(韓国名・独島(トクト))への上陸を強行した。

 現職の韓国大統領としては初めてである。日本の抗議を無視して実効支配を続ける中、歴代大統領は足を踏み入れることまではしなかった。その一線をやすやすと越えた格好だ。

 最高指導者としてあまりに無責任である。猛省してほしい。さらに、あしき前例としないよう確約してもらいたい。

 日本政府は抗議し、駐韓大使に一時帰国を命じた。厳しい対応は当然といえる。

 とはいえ、領土問題は外交努力を通じた平和的な解決が望ましいことは言うまでもない。今回の上陸が両国間の感情的な対立に発展しないよう、冷静さも日本政府には求められる。

 李大統領は訪問の理由を「環境保全を検討するため」と述べている。韓国内でも額面通りに受け取った人は少なかろう。

 大統領の周囲は、実兄らが不正資金事件で逮捕されるなど不祥事続き。半年後の任期切れを前に、政権の求心力失墜は明らかだ。第2次世界大戦の終結記念日とする15日の「光復節」を前に、対日強硬姿勢をアピールして影響力を残そうとした、とみるのが大勢である。

 日韓関係は過去の植民地支配が外交問題として浮上するたびに、悪化と改善を繰り返してきた。最近も、従軍慰安婦問題をめぐり李大統領が批判を強め、関係が冷え込んでいた。

 ここで複雑な領有権問題を政権浮揚の道具にしようとは、外交感覚を疑わざるを得ない。

 竹島は隠岐諸島の北西157キロの日本海にあり、二つの島と数十の岩礁からなる。遅くとも江戸時代初期からアワビ漁などの漁船が行き来した。明治政府は1905年、それまで竹島がどこにも占領された形跡がないことを確認し、閣議決定で島根県の一部としている。

 51年9月調印のサンフランシスコ講和条約も、日本が放棄する地域に竹島を含めなかった。

 ところが52年1月、韓国は沿岸水域の主権を示す「李承晩ライン」を一方的に設定。日本の漁船を竹島周辺の漁場から閉め出した。54年には警備隊を常駐させ、実効支配を強めてきた。

 地元の島根県は、日本政府への働きかけや世論喚起に苦心している。2005年には、県域に編入した2月22日を「竹島の日」と制定。専門家を招いて歴史、国際法などの観点から調査・研究を進める。政府には国際司法裁判所(ICJ)で領有権を確定させるよう求めている。

 しかし肝心の日本政府は、効果的な具体策を繰り出してきたとはいえない。

 お互いが竹島問題をことさらに持ち出せば、「未来志向」での信頼醸成に水を差す。残念ながら日韓関係の現状は、そう言わざるを得ない。

 冷静さを欠く対応ばかりが先行しても決してプラスにはなるまい。ここは毅然(きぜん)としながらも、同時に粘り強く対話を重ねていくしかない。

 北朝鮮の核・ミサイル問題など日韓両国が一致して対応するべき外交課題は山積している。大局的な見地から関係を再構築することが急務だ。

(2012年8月11日朝刊掲載)

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