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社説・コラム

『潮流』 自衛隊のイメージ

■論説委員 岩崎誠

 この時季になると思い出す小説がある。横山秀夫さんの「クライマーズ・ハイ」。1985年8月12日の日航ジャンボ機墜落事故と向き合った群馬県の新聞社の記者たちの物語だ。

 こんな場面が印象に残る。「自衛隊嫌い」の編集幹部。救援活動に当たる自衛官が現場ルポに出てきただけで、紙面の扱いを極端に小さくする。「PRをしてやる必要はない」と。

 当時、地元紙記者として事故を取材した横山さん。フィクションとはいえ、時代の空気を映していよう。

 今は隔世の感がある。自衛隊と聞いただけで嫌う人は少なかろう。1月の内閣府の世論調査でも自衛隊の印象を「良い」とする回答が初めて9割を超えた。東日本大震災での総力挙げた災害派遣がイメージ向上にも貢献したとみていい。

 ただ国民の評価は高まっても、入隊志望の増加には必ずしもつながってない。広島の募集担当者に聞くと「おおむね例年並み。全国的にも同じ傾向です」。少子化もあって高卒の志願者はじわじわ減ってきたが、震災の後も募集が厳しい状況は変わらないようだ。

 なぜか。災害現場での活躍にあこがれて自衛官を志す若者が増える半面、「危ないところに行かせたくない」と親に反対されるケースも目立つというのだ。

 国内の災害でもためらう親の立場からすれば、わが子が海外に派遣されるとなるとさらに不安だろう。

 米軍との連携を強化し、「国際貢献」の名のもとに自衛隊の海外活動を拡大したい防衛省。しかし現場の人材が十分確保できないなら防衛力は足元で揺らぐ。

 千人以上の一線の隊員に話を聞いてきた作家杉山隆男さんも、著書で「彼らも米軍と同じ世界の警察官になりたがっているのだろうか」と疑問を投げ掛ける。

 変わる防衛政策と、日々苦労する「募集」の現場のギャップが気にかかる。

(2012年8月11日朝刊掲載)

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