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社説・コラム

軍縮・不拡散教育グローバル・フォーラムに参加して

一回限りに終わらせまい

■特別編集委員 田城明

 10日から2日間、長崎市の長崎原爆資料館で開かれた「軍縮・不拡散教育グローバル・フォーラム」(外務省、国連大学主催)に参加した。

 今回のフォーラムは、多くの市民、とりわけ将来を担う若者たちが核軍縮や平和への意識を高め、行動へとつなげていくために、どのような教育が必要かなどに力点が置かれた。

 また、フィンランド、カザフスタンなど19カ国の政府関係者に加え、国際機関や平和研究機関、非政府組織(NGO)、自治体、被爆者、学生、そしてメディア関係者らが、同じテーマの下に参集。それぞれ立場の違う者が、軍縮・不拡散の目標実現のためにどのような連携が可能かを探る試みでもあった。

 外務省主導で、こうしたフォーラムを開催したのは初めて。近年、核軍縮・廃絶に向けた取り組みの中で、国際NGOなど民間の働きが大きな役割を果たしつつあることが背景にある。

 軍縮問題を含め「外交は政府の専権事項」との意識が強い。そうした中で、長崎の中学、高校、大学生の核兵器廃絶、平和を願っての実践発表は、海外の参加者を含め、大人たちに感銘を与えた。

 例えば、核兵器廃絶を求めて、2001年から続く「高校生1万人署名活動実行委員会」の取り組み。毎週、街頭に立って反核署名を集め、高校生平和大使として毎年、軍縮会議が開かれるスイス・ジュネーブの国連欧州本部を訪問。その際に持参した署名の数は昨年までに69万筆に達し、同本部の一角に展示されている。

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 彼らの活動は広島をはじめ福岡、大分、熊本、津波で被災した岩手などの高校生にも広がっている。今月19日に日本を出発する高校生平和大使は、こうした地域の高校生を含め国内16人。さらに在ブラジルの被爆者らの協力を得て、ブラジルからも2人の高校生が加わるという。財政面を主に支えるのは、長崎県内にある約50の平和団体だ。

 彼らはまた、「武力よりも教育を! ミサイルよりもえんぴつを!」をスローガンに「高校生1万本えんぴつ運動」を開始。運動のきっかけは、01年の「9・11米中枢同時テロ」やその後に続いた米国によるアフガニスタン戦争だった。

 実行委員会の代表が毎年フィリピンを訪問して、集めた鉛筆を手渡すだけでなく、夏にはフィリピンの高校生数人を広島・長崎に招待。戦争や原爆の惨禍など互いの歴史や文化を学んでいる。

 こうした長崎の高校生の取り組みを、エジプトのハレッド・シャマア・ウィーン代表部大使が称賛。同時に、ジュネーブを訪問するだけでなく、ツイッターなどのソーシャルネットワークを活用して「世界の多くの国の高校生らとも交流し、皆さんの核廃絶への願いを伝えてほしい」と要望した。

 被爆者の体験を次世代に伝え、インターネットなどを通じて国内外に発信することの重要性も多くの参加者から指摘された。私からは中国新聞のジュニアライターたちが被爆体験を聞く「記憶を受け継ぐ」企画について説明。その内容を英訳して中国新聞ヒロシマ平和メディアセンターのウェブサイトに掲載していることを紹介した。

 フォーラムでは、現在、交渉準備が進められている「中東非大量破壊兵器地帯構想」をめぐる議論もされた。パネリストの一人が、ナチスドイツによって虐殺されたユダヤ人の歴史に触れながら、「イスラエルが核兵器を放棄するのは、すべての核保有国が核を捨てた後だろう」と主張した。この発言に、他のパネリストやフロアから、軍縮・不拡散教育の目的が何かを問いただす場面もあった。

 日本政府、外務省が米国の「核の傘」に依存し続けることが、世界に向かって核廃絶を訴える被爆者らの声を弱めているとの批判もあった。

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 テーマの設定や運営などに工夫の余地はあろう。しかし、さまざまな立場の人たちが、核廃絶や平和のために取り組んできた体験を分かち合い、率直に意見を交換。そこから互いに学び、今後に生かしていこうという目的は、半ば果たせたのではないだろうか。

 軍縮・不拡散教育のさらなる充実など九つの行動計画を盛り込んだ「2012年長崎宣言」を採択したのも、一回限りのイベントに終わらせないという主催者の決意の表れでもあろう。

 田上富久・長崎市長がフォーラムの最後に残念そうに私に話し掛けてきた。「長崎市内の小中高校の先生たちが、もっと参加してくれていれば、平和学習に生かすよい機会になったのだが…」。空席が目立つ会場を見つめながら、私も同じ思いにかられた。

〈軍縮・不拡散教育〉
 核物質の拡散が懸念される一方、核兵器保有国の軍縮が停滞していた2002年、コフィ・アナン前国連事務総長が前年に任命した10人の軍縮問題専門家が「軍縮・不拡散教育に関する報告書」をまとめ、事務総長に提出。その中で市民への軍縮・不拡散教育の重要性が指摘された。2010年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議でも、64の行動計画を盛り込んだ最終文書を全会一致で採択。その一つに、各国が自主的に軍縮・不拡散教育に取り組む重要性が力説された。政府は、海外で被爆体験を語る被爆者らを「非核特使」に任命するなど独自の軍縮・不拡散教育を推進。今回のグローバル・フォーラムもその一環である。

(2012年8月14日朝刊掲載)

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