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社説・コラム

社説 日朝協議再開へ 拉致解決への糸口探れ

 日本政府が、北朝鮮と話し合いのテーブルに着く。今月末、4年ぶりに公式協議が開かれることになった。

 終戦前後の混乱により、現在の北朝鮮で亡くなった日本人の遺骨収集や墓参の実現が主な議題という。終戦から67年。引き揚げ者や遺族の高齢化が進む。一日も早くかなうよう、実りある対話を期待したい。

 日本赤十字社と朝鮮赤十字会の実務者協議がきっかけをつくった。貴重な交渉の場を生かし、日本政府は拉致問題の解決にも全力を注ぐべきだ。これ以上、先延ばしにはできない。

 北朝鮮にとっては金正恩(キムジョンウン)第1書記体制が発足して初の協議となる。交渉の見返りとして、新体制の安定を図るための経済支援を引き出すのが狙いのようだ。日本としても、北朝鮮指導者が世代交代した今こそ、交渉のチャンスと捉えることができるだろう。

 「拉致問題が進展すれば政権浮揚につながる」。民主党内にはそんな期待感も透けて見える。だが対朝外交が一筋縄ではいかないことは、身をもって知るところだろう。空白の4年間は、政権交代以降じっとしていたことを意味する。パフォーマンスで終わることのないよう、慎重な話し合いを求めたい。

 「不幸な過去を清算する」とした日朝平壌宣言から来月で10年。当時の小泉純一郎首相が初訪朝し、金正日(キムジョンイル)総書記は日本人拉致を認め謝罪した。ところがその後の北朝鮮の不誠実な対応に、日本は振り回されてきた感が否めない。

 2004年、横田めぐみさんの「遺骨」として北朝鮮から返還された骨が、日本でのDNA鑑定で別人と判明。08年には被害者再調査に合意しながら、いまだ履行していない。日本側は打開策を示せぬまま、時間を空費してきた。

 今こそ、この問題に対する民主党の「本気度」が試される時だろう。政権交代後、拉致問題担当相は6人目。これでは被害者家族からの信頼も得られまい。場当たり的ではない具体の戦略を練って、協議に臨むべきである。

 日本にとって、日朝国交正常化は戦後処理の大きな関門といえるだろう。近隣国と国交がないという不自然な状態から、早く脱却しなければならない。

 平壌宣言で両国首脳は、拉致問題に加えて核やミサイル問題を解決し、国交正常化を目指すと取り決めたはずだが、実現への道のりはいまだ遠い。北朝鮮は06年に弾道ミサイルを発射、同年と09年に2度の核実験を強行する。日本はそのたびに経済制裁を強めてきた。

 一定の制裁は当然である。だが、圧力と対話を両立させていくすべを、もっと身に付けていくときなのだろう。

 両国であらためて宣言の趣旨を確認すべきだ。粛々と粘り強く接触し続ける努力が互いに求められる。腹の探り合いにとどまらず、率直に物が言える関係を築いてもらいたい。

 その上で日本政府は被爆国として6カ国協議の早期再開を求め、核の完全放棄を強く迫るべきである。

 拉致、核、ミサイル問題。これらの解決なくして、国交正常化は成し得ない。日朝協議は、今後の関係づくりを方向付ける新たな出発点ともいえそうだ。

(2012年8月16日朝刊掲載)

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