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社説・コラム

社説 尖閣上陸者送還 冷静な対処評価するが

 終戦の日に尖閣諸島の魚釣島へ不法上陸した香港の活動家14人を、日本政府はきのう強制送還した。日中関係をこれ以上、こじれさせないための冷静な対処といえよう。

 しかし今後も、懲りずに無法が繰り返されないとも限らない。双方の領土ナショナリズムをいたずらに刺激することなく、外交的な手段でコントロールを利かせたい。

 活動家たちは魚釣島の浅瀬に船ごと突っ込み、岩場に飛び移るという荒っぽい行動に出た。日本側は事前に「強硬手段は用いない」との方針で臨んでいたようだ。連携を取り、待ち構えていた沖縄県警や海保、入管の職員らが難なく取り押さえた。

 自民党政権時代の8年前にも上陸した中国人活動家たちを逮捕している。日中関係をおもんぱかった時の小泉純一郎政権は送検を見送り、強制送還した。その前例に倣ったのだろう。

 双方にけが人を出さず、混乱なく事態を収拾し終えたことはよかった。上陸こそ阻止できなかったが、日本による実効支配が及んでいることを示せた意味は小さくない。

 強制送還による速やかな幕引きは、日中双方の政府にとって思惑が一致するところだったのではないか。収束に手間取れば、弱腰外交を嫌う互いの国民感情に火が付きかねなかった。

 苦い記憶がある。おととしの9月、尖閣の領海で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突する事件が起き、日中関係は見る影もなく冷え込んだ。

 日本政府は中国人船長を公務執行妨害容疑で逮捕、送検しながら、中国側の激しい反発で釈放。「腰砕け」批判を浴びた。中国側にしても、尖閣とは無関係の日本人ビジネスマン4人を拘束するなどして、対外イメージを著しく損なった。

 今回、再発防止策として松原仁国家公安委員長が新法整備に言い及んでいる。主権を侵害する目的の不法入国には重罰を科すべきだとしているが、果たしてどうだろう。

 「尖閣に領有権問題は存在しない」というのが政府見解だったはずである。密輸などほかの犯罪容疑でもない限り、上陸先がどこであろうと、法規に則して粛々と強制送還すればいいだけではないか。

 松原氏が目を向けるべきは、自らも一翼を担う民主党政権の外交方針であるはずだ。弱体化する足元を近隣諸国に見透かされたかのように、このところ北方領土に竹島にと、次々に難題を抱え込まされ続けている。

 尖閣諸島をめぐっては、国有化が次の試金石だろう。

 反中国の言動で知られる石原慎太郎東京都知事にけしかけられる格好で国有化の検討に入ったが、買収交渉は思わしくないようだ。中国政府の報復措置や反日世論の高揚を招かないよう粘り強い外交も欠かせない。

 外交や歴史認識の行き違いは、双方のナショナリズムをあおる引き金となりやすい。このまま蒸し返され続け、事態がこじれるばかりとなれば、国際司法裁判所への提訴を中国側に促すのも一つの手かもしれない。

 日中国交正常化40周年という節目でのごたごただ。しかし、これが現実と腹をくくるほかあるまい。未来志向のアジア外交に向け、地道に、迷いなく歩を進めていく必要がある。

(2012年8月18日朝刊掲載)

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