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社説・コラム

社説 「原発ゼロ」の民意 具体的な道筋示すとき

 「原発ゼロ」に進む覚悟を多くの国民は固めているのではないか。2030年の発電量に占める原発比率について国民の意見を聞くため、政府は討論型世論調査を初めて実施した。

 おととい発表された結果では、政府が示す「0%」「15%」「20~25%」の3案のうち、「0%」案が当初の33%から47%に伸び、最も多かった。

 参加者がデメリットも議論した上での判断である。政府はこうした民意を重く受け止めなければならない。

 原発をゼロにすれば、電気料金は最大で2倍に上昇する可能性がある―。政府はこれらの試算を討論型世論調査の参加者に考えてもらうことで、中間の原発比率15%案に誘導しようとしたとされる。

 それでも参加者の多くが0%案を選択した。原発についてより深く学んだ参加者が、何より安全な暮らしを望んだ結果といえよう。

 政府が国民の声に耳を傾けるとして設けたほかの場でも、民意は顕著になっている。

 全国各地で催した意見聴取会では、考えを表明したいと希望した人の7割が0%案を支持した。別に実施した意見公募(パブリックコメント)でも、0%案は9割に達するとみられる。

 経済的な悪影響を懸念する声は根強い。経団連は政府の3案について、いずれも電気料金の値上がりが見込まれるため、産業の空洞化や雇用の悪化が進むと指摘。抜本的な見直しを求めている。

 ただ再生可能エネルギーの拡大や省エネの促進で、関連する産業にはプラス面の効果もあるだろう。電気料金の値上がりも次世代送電網(スマートグリッド)の普及などで抑制できる可能性があるのではないか。

 政府は予想以上に高まった原発ゼロの民意にどう向き合えばよいのか、右往左往している印象がある。野田佳彦首相は今月6日になってようやく、将来、原発をゼロにした場合の対策について検討に入る考えを表明した。

 そうした影響もあり、政府は月内にも原発比率を含めた今後のエネルギー政策をまとめる予定だったが、先延ばしを余儀なくされそうだ。

 野田首相がおととい、毎週金曜に官邸前での脱原発デモを呼び掛けている市民団体の代表メンバーに面会したのも、同じことがいえる。

 民意に応えるためには政府は30年に原発ゼロを実現する道筋を示さなければならない。一つ一つ具体的に検討すべきだ。

 原発を計画的に廃炉にするためにはどうすればよいのか。活断層や津波の危険性が指摘される原発は当然として、そうでない原発も運転期間や地域のバランスを考慮し、前倒しして廃炉にする必要がある。その場合、廃炉費用の手当てをどうするか考えなければならない。

 さらに原発の代替電源として、再生可能エネルギーの拡大をどう進めるのかも重要だ。7月から始まった固定価格買い取り制度だけでは十分とはいえないだろう。

 現状を考えれば、30年までに実現させるのは簡単ではない。原発ゼロの方針を示し、努力する姿勢を見せれば、仮に目標通りでなくても国民の理解は得られるのではないか。

(2012年8月24日朝刊掲載)

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