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社説・コラム

社説 IPPNW世界大会閉幕 放射線被害 一層訴えを

 「ヒロシマから未来の世代へ」をテーマに、広島市で開かれていた第20回核戦争防止国際医師会議(IPPNW)世界大会がきのう閉幕した。

 被爆地広島で23年ぶりの開催。45カ国から延べ約1600人の医療者が集い、核兵器廃絶への道を探った意義は大きい。

 「放射線医学や放射線防護の専門性を生かし、世界のヒバクシャ医療に貢献する決意を新たにする。二度と新たなヒバクシャを出してはならない」

 最終日のきのう発表されたヒロシマ平和アピール。赤十字などとの連携も盛られ、力強いメッセージといえるだろう。

 しかし福島第1原発の事故については「福島の悲劇も忘れてはならない」と触れるにとどまった。期間中、欧米の参加者を中心に、脱原発への強い表明が目立っていただけに、意外な印象が残った。

 宣言ではなく、アピールとしたのも気にかかる。大会事務局によると、内容が多様な要素を含み焦点が絞れていない印象があるためという。訴求力を欠くのは否めまい。

 IPPNWは核戦争の防止や核兵器廃絶を目的としている。だが今回は福島の原発事故後に初めて開かれる世界大会である。日本、それも被爆地での開催とあって、原発事故に対する問題意識は強かった。実際、健康と環境に与える影響のほか、事故の経緯と医療支援をテーマにした全体会議があった。

 医療の専門家から見て、福島の住民の健康状態はどうか、医療やケアはどう進めるべきか、さらには原発の是非について。被爆者、被災者をはじめ、IPPNWの議論や発信を注視した人々も多かったはずだ。

 閉幕後の会見で、米国人理事は、原子力エネルギーの利用について「廃止が以前からの目標。フクシマ後、緊急性、切迫性が増した」と明言した。

 これに対し、日本支部側は「原発依存を減らすというのが大方の認識だろう。それぞれの国情もあり、各国支部間の違いは尊重されるべきだ」と、微妙なずれをうかがわせた。

 今後、原子力エネルギーへの態度をどう定めるかが問われよう。

 もちろん、大会の成果が乏しかったわけではない。

 核兵器の非人道性を国際世論に訴え、禁止条約の早期締結を目指すことを確認した。シンポジウムに登壇した被爆2世の医師の誓いは多くの参加者の胸を打ったに違いない。

 医学生会議は、核兵器のみならず、原子力エネルギー利用を含め、「核時代」終結に努めることを目指すと宣言した。ユースサミットでは国内外の高校生らが活発に議論。次世代の関心を高め、大会テーマに沿った内容となった。

 オバマ米大統領の「核兵器のない世界をめざす」と誓ったプラハ演説から3年余り。残念ながら、その機運は薄らぎつつあるが、福島の原発事故で、核利用には危険を伴うことがあらためて浮き彫りになった。

 医師は放射線が人体に与える影響や健康被害を熟知する専門家だ。正確な情報を提供し、放射線の脅威から人類を守る使命を帯びているといえよう。

 専門的な観点から、核兵器の廃絶とともに、核利用に警告を発する役割が期待されている。

(2012年8月27日朝刊掲載)

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