×

社説・コラム

天風録 「透明なエネルギー」

 今を予見していたのだろうか。宮沢賢治には、そう感じる作品が少なくない。例えば「雨ニモマケズ」。大震災に遭った人たちの胸に、くじけるなというメッセージとなって時を超えて響く▲旧制盛岡中の後輩に贈ろうとした未完の詩もその一つだ。「諸君はこの颯爽(さっそう)たる/諸君の未来圏から吹いて来る/透明な清潔な風を感じないのか」。走り書きした草稿が没後に見つかった。時代の風を読み、新たな価値観を築けと熱く語りかける▲教師が教え子に伝えたい知る人ぞ知る詩。いま心に響くのはこんな一節からだろう。「雲から光から嵐から/透明なエネルギーを得て/人と地球によるべき形を暗示せよ」。まるで現代日本のありようを問うかのよう▲エネルギー政策が決まるはずの8月が過ぎた。脱原発というクリーンな風を望む声が強まる一方、自然の力で大丈夫かと叫ぶ面々も。政府や国会の先生たちは腰が定まらないまま、宿題の締め切りを遅らせた▲そして9月。生徒たちには進路に悩む新学期でもある。自然エネルギーを将来の仕事に。そんな希望も増えるかもしれない。「あらたな正しい時代をつくれ」。かの詩に込めた伝言を受け止めたい。

(2012年9月1日朝刊掲載)

年別アーカイブ