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社説・コラム

社説 米大統領選の構図 「内向き」思考に陥るな

 11月に行われる米大統領選の構図が確定した。

 共和党大会がロムニー前マサチューセッツ州知事とライアン下院予算委員長を正副大統領候補に指名。オバマ、バイデン両氏の再選を図る民主党との激突が大詰めの段階に入った。

 世界の政治、経済に最大の影響力を持つ米国のトップを選ぶだけに、これからの論戦に無関心ではいられない。

 ティーパーティーと呼ばれる反オバマの運動グループからも人気がある保守派のライアン氏。投資会社の経営で富を築いた穏健派のロムニー氏の相方として、共和党の結束を強める効果をもたらしそうだ。

 選挙公約となる綱領にも従来通りの「共和党らしさ」が貫かれている。

 焦点になっている景気回復策では政府の財政支出を抑え、減税で企業活動を促す新自由主義があらわである。妊娠中絶や同性婚に反対する伝統的価値観を重んじる姿勢も変わらない。

 気掛かりなのは外交、軍事方針である。国連を主な舞台にしたオバマ政権の協調外交を「弱腰」と難じる。米国を国際社会での特別な存在と自負する立場から、紛争解決への単独行動を辞さないとする。

 ブッシュ政権(2001~09年)が起こしたアフガニスタン、イラクとの戦争が米国民と世界にもたらした被害をどう受け止めているのだろうか。

 また財政の立て直しと軍事力の増強をどう両立させるのか。疑問が拭えない。

 それにしても、あらゆる政策分野で民主党との対決色を濃くしている共和党。世論調査によると、オバマ、ロムニー両氏の支持率は激しく競り合う。

 チェンジ(変革)を掲げ「米国は一つ」とのムードを盛り上げたオバマ政権誕生時の4年前とは様相が一変した。

 背景にあるのは有権者の関心が強い経済問題である。リーマン・ショック後の金融危機下、富裕層と貧困層との格差が広がり、ウォール街を占拠する市民運動も起きた。

 一時10%に迫っていた失業率は下がってきたとはいえ、なお8%台のままである。

 財政出動の効果が上がらないうちに、赤字ばかりが膨らんでくる。現政権の目玉政策である医療保険改革法にも、中間所得層から不満が募っているかもしれない。

 財源確保に富裕層への増税を図り「景気対策の効果が出るのはこれから」とオバマ続投を訴える民主党。いわば「大きな政府」で、共和党の「小さな政府」とは正面からぶつかる。

 とはいえ選挙の争点が内向きになってしまうのはいかがか。国際平和に果たすべき大国の役割も求められていよう。

 内戦の犠牲になっているシリア国民を救う手だてはないのか。イランの核開発疑惑をめぐる対立をどう収拾するか。ただ武力の一方的な行使で紛争をさらに広げるような事態は回避してもらいたい。

 「核なき世界」の理念を掲げてノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領だが、具体的な道筋があいまいだ。核兵器の保持を引き続き唱える共和党の政策に至ってはとても賛成できない。

 日本を取り巻く東アジア情勢にも関わりが深い。米大統領選の行方を注視したい。

(2012年9月1日朝刊掲載)

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