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社説・コラム

天風録 「野田首相の1年」

 泥くさく、あくまで愚直に。「ドジョウ」を自任した野田佳彦首相はきょうで正式就任から丸1年。このところ演説上手の片りんがうかがえない。「近いうち」とした解散時期をはぐらかすあたり、まさにヌルヌルと、つかみどころもない▲先月6日の平和記念式典。広島での首相あいさつは格調高かった。被爆国は人類の未来に崇高な責任がある。悲惨な体験の記憶を次世代に伝承し、核兵器のない世界を目指して行動すること―。相づちを打つ参列者がいた▲だが1カ月もたたないのに、はや記憶は薄らぐ。3日後に長崎で全く同じ言葉遣いをしたのはさておき、何より肝心の行動が見えないからだ。被爆地からすれば、体験継承をめぐる通り一遍の施策は「動かない政治」の象徴に思えてくる▲消費増税をやり遂げた宰相として歴史に名を残すだろう。だとしても「身を切る覚悟」「分厚い中間層の復活」「脱原発依存」。何度も繰り返した題目の行く末やいかに▲自民党政権のころ、8・6式典の首相あいさつには定型があった。いわく「核兵器廃絶に向け国際社会の先頭に立つ」。来年はどんな語りを耳にするのか。いや、実のない言葉より揺るがぬ一歩を。

(2012年9月2日朝刊掲載)

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