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社説・コラム

社説 日朝政府間協議 粘り強く拉致の解決を

 今度こそ拉致問題の解決につなげられるだろうか。日本と北朝鮮は4年ぶりとなる政府間の協議で「双方が関心を有する事項」について幅広く話し合うことで合意した。

 より高い交渉権限を持つ局長級の会合を今月前半にも開くよう調整する。日本側の説明によると、拉致問題も議題として取り上げるという。

 拉致問題は日本国民の生命に関わる重要な事項であるにもかかわらず、長い間、行き詰まったままである。解きほぐすには困難も予想されようが、粘り強く交渉するしかない。

 中国・北京で先月末、開催されたのは課長級レベルの協議であり、「予備交渉」との位置付けだ。今後話し合っていく議題を固める狙いだった。

 協議は当初の予定から1日延長されて3日間に及んだ。日本側が拉致問題を議題化するよう迫っても、北朝鮮は「解決済み」と譲らなかったとされる。

 こうしたやりとりでは、次の局長級会合の議題があいまいに終わったのもやむを得ない面があるだろう。北朝鮮側も拉致問題を議題にするとは明言していない。

 決裂する可能性もあったことを考えれば、次の段階に進めたこと自体は一定の評価ができるだろう。しかし、この先も厳しい道のりが続きそうだ。

 横田めぐみさんの父、滋さんは「拉致問題を取り上げないということではないと思う」と次への期待を示した。高齢化が進む被害者家族の訴えは切実だ。今こそ問題の解決を急ぐ必要がある。

 家族たちからは「協議が立ち消えになってしまうのが一番怖い」との懸念が聞かれる。不安を現実にしてはならない。

 北朝鮮側にとっても、金正恩(キムジョンウン)第1書記体制が発足して初めての日朝協議。簡単に決裂させられない事情があるとされる。

 少雨による干ばつ被害に加えて水害にも遭い、食糧不足が一層深刻化していると伝わる。中国からの食糧援助だけでは十分ではないようだ。

 今年4月の長距離弾道ミサイル発射は失敗したが、米国との関係は冷え込んだまま。さらに米国と韓国は大統領選を控えている。すぐに経済支援を引き出すのは難しいと北朝鮮側は判断しているのではないか。

 北朝鮮はこうした他国の状況を踏まえ、日本からの支援に期待を強めているのは間違いなさそうだ。

 今月17日は、小泉純一郎元首相が初めて訪朝し北朝鮮が拉致問題を認めてから10年になる。この間、被害者5人が帰国したが、めぐみさんら12人の行方は分からないままだ。

 4年前の日朝実務者協議では拉致問題の再調査で合意したにもかかわらず、北朝鮮側が一方的に見送りを通告してきた。

 日本政府が認定している被害者以外に、北朝鮮による拉致の可能性が否定できない特定失踪者約470人についても調査は進んでいない。

 10年前の日朝平壌宣言は、不幸な過去を清算し、懸案事項の解決が地域の平和と安定に寄与するとうたう。

 北朝鮮は新体制に移行した今こそ、平壌宣言の原点に立ち返り、これまでの不誠実な姿勢を改めるべきだ。過去の清算に真摯(しんし)に向き合ってもらいたい。

(2012年9月2日朝刊掲載)

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