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社説・コラム

社説 夏の電力需給検証 脱原発依存の出発点に

 関西電力大飯原発の再稼働は必要だったのかどうか。電力の需給が逼迫(ひっぱく)する夏場を何とか無事に過ごした今、あらためて検証する必要がある。

 今日までを節電期間としていた中部電力から九州電力に至る中・西日本6社の推計をもとに、資源エネルギー庁がまとめたデータに注目しよう。

 夏の最大需要は8月3日の8723万キロワット。これに対し供給力は9714万キロワットで、余力に相当する予備率は11・4%だった。

 もし大飯の再稼働がなかったらと差し引いても、8・6%の予備率を確保した。安定供給の目安とされる8~10%に収まっているではないか。

 数値を見る限り「広域の融通をもっと広げれば原発なしでも足りていたのでは」といった疑問が生じるのは当然だろう。

 エネ庁は弁明する。余力が生じたのはこの夏、中・西日本では想定を上回る供給増と、節電目標を超過達成した需要減があったからだと。

 しかし発電所のトラブルが減ったとか、降雨量と日射量が意外に多く、水力や太陽光での供給に有利に働いたなどと列挙するだけでは、説得力に乏しいと言わざるを得ない。

 関電管内に限ると予備率は11・6%だったが、大飯を除けば2・7%。需要の瞬時変動に対応できる最低ラインの3%を下回り、危険な状態だった。

 このためエネ庁は「需給逼迫に備え、国民生活を守る観点から、大飯の再稼働は妥当だった」と結論づけている。

 だが政府や関電は当初、大飯の再稼働がなければ14・9%の電力不足が生じると予測していたはずである。再稼働に難色を示していた関西の自治体首長らがこの数字を突き付けられて容認に転じたのは記憶に新しい。

 3%足らずとはいえ結果として余剰が生じた。15%の不足とはあまりにかけ離れている。「大げさな予想だった」との批判に応えるには、丁寧に理由を説明しなければなるまい。

 もちろん天候頼みでない企業努力は評価できよう。

 地元の中国電力は火力発電所の補修時期を前倒ししたり繰り延べたりして、夏場にフル稼働できる態勢を整えた。管内の大手工場の自家用発電所からも余剰分に加え、別枠で購入した。

 関電、九電に融通しながら9%以上の予備率を保つことができたのは、中電の原発依存度が低いうえ、コンビナートなど中国地方の自家発電のウエートが高いという事情があるからだ。

 需要面ではどの地域でも、節電効果が大きい。原発への依存度を下げたいとの消費者の思いも加わっていよう。

 ただ産業用の需要減はコスト意識からだけなのか。景気低迷による稼働率の落ち込みもあるとすれば、素直には喜べない。

 原発なしで夏を乗り切れるかどうか、激しい論議の末の貴重な体験となった。

 電源別の運転状況や燃料の調達、用途別の消費実績を細かく分析する必要がある。

 そのうえで気象条件の変動も取り入れた需給の関連をデータとして構築してはどうだろう。行政と電力業界だけでなく、専門家の協力を望みたい。

 まずは政府が10日にもまとめる新たなエネルギー・環境戦略の具体化に生かしたい。脱原発依存の出発点になろう。

(2012年9月7日朝刊掲載)

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