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社説・コラム

社説 震災1年半 遠い復興 支援忘れずに

 東日本大震災からまもなく1年半が過ぎる。福島第1原発の事故も含め、未曽有の災害が残した爪痕はあまりに大きい。地域はまだ立ち直れないでいる。

 私たちは惜しみない支援を誓った。だが時がたつにつれ、意識や取り組みは途絶えがちだ。被災地が直面する課題は正面から向き合い、寄り添いたい。

 厚生労働省はおととい、震災による死者を初めて集計した。1万8877人にも上っている。行方不明者は警察庁によると、5日現在で2846人。捜索は続くが、月に数体ほどの発見にとどまるのが現状という。

 肉親を捜す人、家族の元に戻れぬ遺体が今もある。「あの日」が終わっていないことを忘れてはならない。

 復興に向け政府は巨額の予算を計上するが、歩みは停滞していると言わざるを得ない。

 2011年度に計上された復興費約15兆円のうち、約4割が年度内に使われなかった。

 被災地との調整に手間取っているようだ。事業を推し進める自治体職員、現場で工事にあたる作業員も不足する。資材も足りないという。復興庁は常に、地元とともに事業の優先順位や内容を見直し、推進のピッチを上げるよう努めてもらいたい。

 災害廃棄物の処理が進まず、放射性物質の仮置き場が見つからないことも停滞の一因だ。

 岩手、宮城、福島の3県で発生した震災がれきは計2758万トン。政府は14年3月末の処理作業完了を目指す。だがこれまでに処理を終えたのは2割足らずにとどまる。

 広域処理を受け入れる自治体は東日本に集中し、中四国にはない。放射線量など安全性の確保は大前提として、各自治体で手を差し伸べられないか。いま一度、検討したい。

 日本にとって地震は不可避の災害である。南海トラフ地震の被害想定に多くの国民は危機感を抱いた。互助によって「減災」を図るしかない。その意味でも、東日本大震災への関心を鈍らせてはならない。

 1年半たっても先が見通せないのが、原発の廃炉と放射性物質の除染作業である。4号機の未使用燃料の一部を試験的に取り出したものの、1~3号機の原子炉で溶け落ちた燃料は処分法のめども立っていない。

 汚染土壌については、政府は原発の周辺3町に中間貯蔵施設の候補地12カ所を示した。だが最終処分場にされかねないとの不信から地元が反発するのも無理はない。説明を丁寧に尽くすしかないだろう。

 避難指示を解除した区域では2年後に帰還できる環境を整える―。政府は福島の12市町村に対する復興グランドデザインを決めた。

 除染をどの範囲で施し、居住環境をどこまで回復させるか、早急に示すべきだ。帰還か、移住か。長い避難生活を強いられた住民がさらにつらい選択を迫られる。どちらを選んでも将来の暮らしに希望が持てるよう、十分な手だてが欠かせない。

 脱原発の運動が国民的な広がりを見せている。一方で、被災地への共感が薄らいではいないか。被災者が最も恐れるのは「忘れられる」ことだろう。

 復興への道のりは遠い。被災地の産品購入など、一人一人が身近なところで被災地を支える意識を持ち続けたい。

(2012年9月9日朝刊掲載)

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