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社説・コラム

社説 APECと日本外交 近隣関係の再構築こそ

 国際舞台で、日本の存在感が薄らいでいるのではないか。ロシア極東のウラジオストクで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)でも、そんな疑問が拭えないままだった。

 首脳会議で採択された宣言は、日本と関わりの深い分野で重要な合意を盛り込んでいる。

 経済成長に伴うエネルギーの需要増に応じて、天然ガスの生産と貿易拡大を促す。穀物需給の逼迫(ひっぱく)が懸念される中、農産物価格の乱高下につながる食料品の輸出規制をしないよう保護主義を抑制する―。

 野田佳彦首相と議長国ロシアのプーチン大統領との首脳会談では、オホーツク海のカニ密漁・密輸防止やウラジオストク郊外の液化天然ガスプラント建設への日本企業参加で合意した。

 極東の開発を重視するロシア側が日本との経済協力に意欲を示したものといえる。

 APECと日ロの合意はそれなりの成果と評価できよう。

 しかし会議を通じて、野田首相が主導的な役割を果たした様子はうかがえない。

 それというのも国境の島々をめぐり近隣諸国との緊張が高まるばかりで、広くアジア太平洋を見渡した外交戦略を描けていないからではないか。竹島に強行上陸した韓国の李明博(イミョンバク)大統領も、国際社会で日本の影響力が低下したとみているようだ。

 貴重な国際会議の場でありながら、李大統領、中国の胡錦濤国家主席とはいずれも、短時間の立ち話をしただけだった。

 お互いがそれぞれの主張を繰り返すだけに終わるとしても、現在よりは事態を悪化させないという最低限の確認をする場を設けることはできなかったのだろうか。

 国際司法裁判所への共同提訴を拒むなど強硬姿勢を続ける李氏は一方で、日本との関係修復を模索しているとも報じられる。今後の動向を見極めたい。

 胡主席には野田首相が日中国交正常化40年に触れ、中国南西部の地震への見舞いも伝えた。

 ところが中国側の報道によれば、日本政府による尖閣諸島国有化について、胡氏は「断固反対する」などと述べたという。自国向けの発言かもしれないが、今後、強硬な対抗措置を打ち出す恐れがある。

 日ロ間の懸案である北方領土では交渉の継続を確認したとはいえ、四島一括返還を求める日本側の主張にロシア側が歩み寄る気配はまだ見えない。

 12月に野田首相がロシアを訪問するという外交日程は「解散総選挙を先送りするつもりでは」との観測を生んでいる。

 「ねじれ国会」のもと、消費増税をめぐる民主党の分裂などで野田首相の政権基盤が弱体化していることは、外交力の低下と無関係ではあるまい。

 国家主権を守りつつ「領土」に絡む対立を緩和できるよう近隣諸国との関係を再構築しなければならない。それを土台に外交力をどう回復させるかが、これからの政権論議で重要なテーマになるだろう。

 選挙時の世論調査では通常、社会保障や景気に比べ外交への有権者の関心はいまひとつ。しかし、ひとたびナショナリズムが過熱すれば国を危うくする。 相手国との複数のチャンネルを確保するとか国際社会へのアピール力を高めるといった具体策を含め、冷静に論じよう。

(2012年9月11日朝刊掲載)

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