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社説・コラム

『潮流』 揺れる関係

■松江支局長 冨田将嗣

 「私の歴史はここまで」と、日本史の先生は教科書末尾の数十ページ分を残し、「終戦」で授業を打ち切った。広島市内の高校に通った30年以上も前のこと。松江市内の高校を卒業した同年代も、やはり「戦後」は習わなかったという。

 朝鮮戦争、60年安保などの見方が揺れる中、個人の史観を高校生に植え付けるのは避けようと教師が配慮したようだ。大学受験に向け丹念に教えようとするあまり、授業時間が足りなくなったのかもしれない。

 今、竹島をめぐり日韓関係が揺れている。先月、独島(トクト)と呼んで実効支配する韓国の李明博(イミョンバク)大統領が上陸したのが発端。野田佳彦首相の親書を送り返すなど、もつれた糸を解きほぐすのは容易ではなさそうだ。

 竹島は松江市の北西約220キロ、韓国・蔚珍(ウルチン)からだと東約215キロにあり、東西二つの島と数十の岩礁からなる。総面積は0・21平方キロしかなく、水が乏しいため定住には適さない。

 江戸初期から島周辺で漁を営んできたとの記録が日本側にある。1905年、島の領土編入を閣議決定し、2月22日に島根県が隠岐の所管と告示した。

 だが同年、日本は当時の大韓帝国の外交権を握る第2次日韓協約を締結した。それが5年後の日韓併合につながっていく。

 こうした経緯から韓国側は島を「日本の植民地支配の象徴」ととらえているようで、戦後の54年から警備隊を常駐させた。教科書にも「自国の領土」と明記されているという。

 日本でも来春から、高校生が使うほとんどの教科書に「竹島」は記される。教師は、揺れる両国の現状をどう解説するのだろう。

 未来を生きる高校生たちは、現在に至る日韓関係をしっかり学んでほしい。受験で苦労したわが身を振り返るからだけではない。政治家だけに任せる場合ではないと思うからだ。

(2012年9月11日朝刊掲載)

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