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社説・コラム

社説 原発ゼロ 困難だがやり遂げよう

 2030年代に「原発ゼロ」を実現する―。原発推進一辺倒だった時代を思うと、まさに画期的といえる新エネルギー戦略を政府が決めた。

 国民の暮らしや産業への影響は避けられまい。だが、福島第1原発事故の収束が見えない現状を考えれば、原発のない社会に向け、国を挙げて取り組むのは必然ともいえよう。

 大方の国民が脱原発の方向性を支持している。そうした民意を反映させた点でも意義は大きい。長く困難な道のりが予想されるが、目標実現のため、ぶれずに進めていくほかあるまい。

 新戦略の要点は、原発の運転は全て40年までとし、安全が確認された場合に限って再稼働すること、今後の新増設はしないことを「3原則」として明記したことにある。

 中国地方では、本体工事に入っていない上関原発(山口県上関町)は中止となりそう。推進か反対かで町内が二分された時間はあまりに長い。「3・11」を機に、この事態を予測していた町民も多かろう。

 原発に頼らないまちづくりに向け、地域の一体を取り戻す契機だと前向きに捉えたい。国や県は、自立を模索する地元の動きを支えてもらいたい。

 島根原発(松江市)では、40年ルールを適用すれば1号機は2年後、2号機は17年後に廃炉の時期を迎える。やはり今の段階から「ポスト原発」の地域像を議論するしかなさそうだ。

 完成間近だった3号機について、政府は建設の続行を認める考えのようだ。ただ30年代末までに原発ゼロを達成する全体目標のもと、3号機が仮に今すぐ稼働しても運転期間は30年間にも満たない。例外扱いでの延長を期待すべきでもなかろう。

 新戦略はほかにも、あいまいな点や矛盾が残る。

 原発ゼロの達成時期に幅を持たせたのは目標としてどうか。当初は30年時点でのエネルギー比率を議論していたはずだ。これ以上の先送りは許されない。

 さらに気になるのは、使用済み核燃料の再処理を当面続けるとしたことだ。原発をなくすのなら当然、再処理は不要。しかも再処理で生じる余剰プルトニウムを抱え続けることは、国際社会からも容認されない。

 ここは、核燃料サイクルを明確に放棄し、再処理せず地中に埋める直接処分の具体的な検討を急ぐべきであろう。

 経済界などは早くも原発ゼロ政策そのものに反発の声を上げている。安価で安定した電力の供給に不安が残るからだ。

 ならば再生可能エネルギーの普及や技術革新について、官民一体の取り組みを徹底的に強めてはどうだろう。新成長分野への前向きな挑戦としたい。

 火力発電向け液化天然ガスの調達価格を引き下げるための国際交渉でも、政府が外交力を発揮すべき場面は少なくない。

 「あらゆる政策資源を投入する」。今回の新戦略に盛り込まれた言葉を、まずは全ての省庁が肝に銘じてほしい。

 原発ゼロの実現にはさらに、省エネ技術を一段と進め、温暖化防止と両立させることも必要となろう。国民も節電などの協力と負担増が求められそうだ。

 だとしても、「3・11」を思い起こせば、私たちも覚悟を固めるしかない。暮らしを見つめ直すチャンスだと捉えよう。

(2012年9月16日朝刊掲載)

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