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社説・コラム

天風録 「白衣の効用」

 白衣を目にしただけで血圧が上がる。そんな患者も珍しくないそうだ。注射→痛い、といった連想が一瞬のうちに浮かぶのだろうか。「白衣高血圧」と医学用語にあるくらいだから、その威光は侮れない▲ただし、病気が相手。時には思わぬウイルスもくっつく。白衣のまま院外へ、という気分にはなれまい。そう思っていたら、東大病院の准教授が白衣姿で放射線学習の教壇に立った。原発事故で福島県飯舘村を追われ、仮住まいが続く中学校。村教委のお膳立てという▲「安心を」と繰り返し、引き合いにヒロシマを出した。被爆地広島は「政令市でトップ級の長生き都市」「健診やがん検診の成果」と。心ならずも早世した、あまたの被爆者にまず言い及んでほしかった▲安全神話なき今、「福島は大丈夫」の一声が何よりの薬かもしれない。とはいえ、間接被曝(ひばく)の研究は広島でも緒に就いたばかり。分かっていなければ「分かっていない」と言う。それが白衣の徒たる務めのはず▲地域づくりにも教育にも真心を尽くし、手間暇を惜しまない。飯舘村といえば、そうした「までいの心」を旨としてきたのではなかったか。心にまで巣くう被曝の罪深さを思う。

(2012年9月18日朝刊掲載)

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