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社説・コラム

社説 中国の反日デモ激化 冷静な対応できないか

 日本が沖縄県の尖閣諸島を国有化して以来、中国国内が大荒れに荒れている。

 きのうは満州事変の端緒となった柳条湖事件から81年。反日デモが北京や上海をはじめ少なくとも125都市に広がった。

 大使館の窓ガラスが割られ、各地で日の丸が焼かれた。「日本に宣戦布告を」との過激な叫びも聞かれたという。先日は日系企業が放火されたり、日本人が背後から襲われたりする事件も。異様な緊迫感に、背筋が冷たくなる。

 中国政府は民衆の暴徒化を防ぐとする一方、デモ自体は容認している。だが強権的に若者の興奮をしずめたとしても、一時しのぎに終わりかねない。

 まずは少なくとも、邦人に危害が及ぶ事態は繰り返さないでもらいたい。

 長期化する懸念もある。日本政府が手をこまねいているわけにはいくまい。当面、中国側との対話を通じて沈静化の糸口を探るしかないだろう。同時に、将来を見据えた戦略的な対応も問われよう。

 反日デモの広がりは、11日に日本政府が尖閣諸島を国有化したのが引き金となった。政府は東京都による購入に比べれば中国側の理解は得られると踏んでいたようだが、結果的に見通しは甘かった。

 根回し不足を指摘する声もある。いったんアジア重視を掲げながら内実の伴わない民主党政権の外交政策。その足元が問い直されているともいえよう。

 今回は、小泉純一郎首相の靖国神社参拝などを背景にした2005年当時に比べても民衆の抗議は一段と激しいようだ。

 指導部交代を控えた中国政府が、高圧的な対外姿勢を見せることで求心力を高めようという思惑も関係しているのだろう。中国外務省の副報道局長が「責任は日本が負うべきだ」と発言したのが象徴だ。法治国家として犯罪行為を防ぐ一義的な責任は中国側にあるはずだが。

 今月29日は日中国交正常化から40年。ここは、尖閣について当時の扱いを互いに再検証するなど、冷静に歴史を振り返る作業が必要かもしれない。

 日本政府は尖閣で「領土問題は存在しない」という立場を取ってきた。実効支配する側からすれば、いたずらに波風を起こさないという「静」の姿勢は当然だった面がある。

 ところが南シナ海も含めて資源権益を押さえようと躍起になる中国は、政府の監視船をたびたび尖閣周辺に出航させている。こちらは強硬姿勢で事態を動かそうとの意図に違いない。

 対抗して日本政府が尖閣に船だまりを設けるなどしても反発を強めるばかり。日米同盟の下、米国の軍事力に頼る姿勢をのぞかせても火に油を注ぐのは必至。力に力で応じても展望が開けないことは明らかだろう。

 日中関係の将来を考えれば相互信頼を深めていくしかない。長い時間がかかろうが、両国民が互いを理解し、尊重し合う方策を考えなければならない。

 尖閣について中国が自らの主張を譲らないならば、国際司法裁判所に判断を委ねることも一考の余地はありはしないか。

 中国側に提訴を促し、反応を見極めればよい。少なくとも平和的な解決を日本が求めていることはアピールできる。国際社会の理解を得る道ともなろう。

(2012年9月19日朝刊掲載)

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