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社説・コラム

社説 オスプレイ「安全宣言」 低空飛行の容認許せぬ

 少し時間をかけただけで、結局は「配備ありき」の米側の言い分をうのみにした格好だ。

 米軍の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイについて、きのう日本政府が「安全宣言」を出した。米海兵隊は週内にも岩国基地を拠点に試験飛行に踏み切った上で、沖縄・普天間基地に持ち込む構えである。

 それでいいのだろうか。沖縄県の仲井真弘多知事は「われわれは安全と思っていない。理解不能だ」と厳しく批判した。無理に進めるなら沖縄の反発がうねりとなり、安全保障政策に禍根を残すことになろう。

 日本政府からすれば、米側と懸命に交渉して譲歩を引き出した、と言いたいようだ。日米合同委員会による合意事項には確かに、日本側に一定の配慮をしたような文言が並ぶ。

 オスプレイの飛行における「垂直離着陸モード」は米軍基地と上空に限る。全国各地での低空飛行訓練は日本の航空法に準じて高度150メートル以上とし、人口密集地や病院・学校などは避ける―などである。しかし安全性に関する根本的な疑問は解消されていない。

 何より設計の不備を指摘する米国内の専門家の声を無視し、機体自体に問題がないと決めてかかっているようにみえる。

 仮に米軍の主張通り、相次ぐ墜落事故が全てパイロットの人為ミスだったとしよう。では、再発防止の訓練は十分なのだろうか。「日本においても訓練を継続する」といった合意内容では不安になってくる。

 決まったコースを飛ぶ民間機に比べ、もともと軍用機の運用は訓練を含めてリスクを負う。時に想定外の無理な飛び方も求められるからだ。その点をあいまいにして安全と言い切るのは詭弁(きべん)に聞こえる。

 もう一つ見過ごせないのは、日本政府がオスプレイの本土側の低空飛行訓練をあっさり容認したことだ。列島各地に米軍が一方的に設定している6本の飛行ルートのほか、西中国山地の訓練空域「エリア567」なども使用される可能性がある。

 これらの地域での米軍機の訓練に対し、広島県などが長い間、日米両政府に抗議を続けてきたことをどう考えているのだろう。飛行ルートが日本政府公認になったとばかりに、戦闘機など他の機種も含めた訓練がエスカレートする恐れはないか。

 さらにいえば、たとえ高さ150メートル以上で飛んだとしても相当な騒音と恐怖感をもたらすのは間違いない。人口密集地などの回避にしても13年前に日米で申し合わせた話だ。なのに一向に守られていない現実がある。

 今回の合意も、基本的には努力義務にすぎず、米軍の腹一つで形骸化しかねない。

 このまま配備され、訓練が始まった段階でどこかで事故が起きればどうなるか。

 日米安保体制の信頼性は揺らぎ、日本政府の責任が厳しく問われよう。そこまでの覚悟が求められることを野田佳彦首相はもっと認識する必要がある。

 まずは岩国の試験飛行を強行すべきではない。だが山口県知事も岩国市長も沖縄の反発に比べると若干歯切れが悪かった。

 全国知事会も7月、オスプレイ配備に懸念を表明する異例の決議をしている。もはや沖縄や岩国だけの問題ではないことを忘れてはならない。

(2012年9月20日朝刊掲載)

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