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社説・コラム

社説 原子力規制委 安全の「番人」務まるのか

 福島第1原発事故から1年半。原子力規制委員会が発足した。原発の安全性を一元的に、厳しく監視する組織である。ようやくの船出だが、きちんと機能するのかといぶかる人は多いのではないか。

 トップの人選やその決め方に対し不信感が残るからだ。委員長に田中俊一・前原子力委員会委員長代理が就任した。日本原子力学会会長も務め、原発政策を推進してきた人である。

 4人の委員の中には、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」を所有する日本原子力研究開発機構に所属していた人もいる。就任前の3年間に、原子力事業者や団体の従業員だった人は委員になれないという欠格要件に抵触するのではとの指摘もある。

 そんな違和感も募る人事を、野田佳彦首相が押し切った。国会の同意が得られぬまま首相権限で任命したのだ。国会軽視につながりかねない。

 国会事故調が提言したように第三者機関で相当数の候補者を1次選定し、その中から国会が最終決定するような透明な手順をなぜ踏めなかったのだろう。

 そのうえ事務局を担う原子力規制庁も、幹部には経済産業省など原子力を推進する官庁出身者が名を連ねている。これでは、電力業界との癒着で機能不全に陥った原子力安全・保安院と同じ道を歩みはしないか。

 とはいえ規制委は国民の生命や健康、財産などを守るためにつくるのだと設置法にある。その文言に偽りはないと信じたい。国民の安全を第一とする「番人」としてぶれずに職責を全うするしかあるまい。

 チェルノブイリ原発事故被災者の人道支援を担当した、広島市東区出身の大島賢三・元国連大使も委員の一人。被爆者である大島氏が、福島の痛みの代弁者となることを期待したい。

 これから原子力規制委と規制庁は、極めて重要な課題と向き合わなければならない。原発の再稼働に向けた安全基準の見直し、40年廃炉のルールづくり、活断層の独自調査などである。

 再稼働について田中委員長は記者会見で「ストレステストや暫定基準にとらわれず新基準で見直す」と述べた。現段階より後退しないよう、より厳格な審査基準が求められる。

 運転期間が40年を超えた原発の運転を最大20年延長できる例外の適用は「相当困難」との認識を示した。ならばこの例外の削除も提案すべきだろう。

 また、運転再開や廃炉の決定を、最終的に誰が判断するのかもあいまいだ。

 先日も藤村修官房長官が、既に40年を超えている福井県の関西電力美浜1、2号機、日本原子力発電敦賀1号機の計3基について廃炉方針を示した。規制委が独立性をうたいながら、結局は政府の結論に追随するだけではないかと疑いたくもなる。

 野田内閣は「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指すとした新たなエネルギー戦略は取りまとめたものの、その戦略自体の閣議決定は見送っている。原発のある自治体や経済界などに遠慮し、明確な意思表示を避けた。規制政策に対する政府の足腰こそふらついている。

 「原発ゼロ」方針をけん引できるかどうか。規制委と規制庁の本気度が試される。地道に結果を出していくことこそ、国民の信頼を獲得する近道だろう。

(2012年9月21日朝刊掲載)

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