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社説・コラム

社説 環境税 理念なき負担増は困る

 政治が混迷を極める中で、新たな税金が課される。10月1日から導入される環境税、正式には地球温暖化対策税である。

 石油をはじめ、二酸化炭素(CO2)を出す化石燃料にかかる。電力会社やガス会社、石油元売りなどの事業者がまず負担し、それぞれの判断で消費者に転嫁していく仕組みだ。

 地球環境を守るため、みんなで負担を分かち合う。その考え方はうなずける。しかし今は民主党政権の温暖化対策そのものが揺らいでいる状況だ。新税が国民の腹に落ちるだろうか。

 とりあえずの税額はCO2排出量に応じて石油が1キロリットル当たり250円、天然ガスは1トン当たり260円、石炭は1トン当たり220円。生活に身近なガソリンでいえば40リットルで10円になる。2016年度にかけて段階的に引き上げられ、最終的にはこれらの約3倍を課すという。

 その時点で見込まれる税収は年に2600億円余り。自然エネルギーや省エネの普及などに使ってCO2削減につなげる、というのが国の言い分である。

 一方で、事業者の側は対応に頭を悩ませる。そう簡単には消費者に転嫁できないからだ。中国電力は当面、料金への反映は見合わせる構え。厳しい価格競争を続けるガソリンスタンドの多くも様子見という。

 とはいえ、いずれ国民にしわ寄せがいくのは確かだ。今なぜ新税が必要なのか、政府はもっと丁寧な説明が求められよう。

 なのに野田佳彦首相には温暖化対策への熱意がさほど感じられない。CO2に代表される温室効果ガスの排出量削減は、民主党の政策の柱だったはずだ。

 鳩山由紀夫首相の時代、国連で表明したのが1990年比の排出量を「2020年までに25%減らす」とする国際公約だ。

 環境税も、それを実現させるための一手だった。企業間の「排出枠」の取引制度、そして再生可能エネルギーの固定価格買い取りとともに「3点セット」とも呼ばれていた。

 しかし理念や目標を書き込んだ肝心の「地球温暖化対策基本法案」はどうか。実現を困難視する経済界や自民党などの反対で、いまだ継続審議である。

 脱原発依存という追い風を受け、再生可能エネルギー買い取りはやっと7月に始まった。一方で排出枠取引の方は完全に棚上げ。政府・与党では25%減という目標の見直しも語られる。

 こうした腰の据わらない状況で、税金を先に払えとの姿勢が十分な説得力を持つだろうか。

 そもそも環境税の使い道は、現時点であいまいである。「自然エネルギー普及に」とうたっても、電気料金では買い取り価格分が既に上乗せされている。どこかちぐはぐだ。

 北極海の氷が1980年代の半分以下に減ったとのニュースに驚いた。猛暑や災害の多発も気掛かりだ。国際公約の旗を降ろして済む問題ではなかろう。

 日本が国際社会の先頭に立つべきなのは変わるまい。もちろん原発増設で温室効果ガスを抑える発想はもう許されない。

 「原発ゼロ」と温暖化防止を同時に実現する手だては。自然の力をできる限り活用し、化石燃料に過剰に依存しない暮らしをどう確立するか。いま議論すべきことは多い。環境税の導入を、温暖化対策を仕切り直すきっかけにすべきである。

(2012年9月29日朝刊掲載)

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