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社説・コラム

天風録 「チムグリサ」

 チムグリサとは沖縄の古い方言だ。「肝苦(チムグリ)さ」と書く。人のつらさ、苦しみをわが身のように感じることをいう。「かわいそう」よりも「お気の毒に」よりも、もっとそばで深く相手を思うこと▲先週訪ねた沖縄で、この言葉を知った。胸を突かれたのはなぜだろう。本土の人よ、オスプレイが配備される苦悩が分かるか。チムグリサの心でつながっているか。そう問われた気がしたから▲宜野湾市の普天間飛行場周辺はすさまじい緊迫感だった。「断固反対」。台風の雨に打たれながらも、市民が仁王立ちでゲートをふさぐ。「命がけでNOと言うよ」。81歳のおじいが語気を強める▲これでもかとばかり、危険を押し付ける政府。国を守るため多少の犠牲はやむを得ない―。本土から聞こえる一部の声にも怒りを募らせる。「そう言って、あの沖縄戦も始まったんだから」。チムグリサどころか、想像力すら喪失してはいないかと▲滑走路の北端にほど近いフェンス沿いに、普天間第2小学校がある。天気がよかった朝のうち、プールでは子どもたちが楽しそうに水しぶきを上げていた。胸が苦しくなる。この学びやをかすめるように、オスプレイは飛んでいくのか。

(2012年10月1日朝刊掲載)

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