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社説・コラム

社説 オスプレイ普天間配備 住民無視にも程がある

 米海兵隊岩国基地(岩国市)に一時駐機していた垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ3機がきのう、普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備された。

 前日に先行した第1陣の6機と合流した。あと3機が岩国に残るが、米側の思惑通りに既成事実が積み重ねられていく。

 沖縄県民は怒り、嘆いている。米側の言いなりになるばかりで、沖縄の痛みから目を背け続ける日本政府に対してだ。

 沖縄返還から40年。一向に本土並みにならない現実を前に、県民からは「差別だ」との憤りも聞こえてくる。墜落事故が相次ぐオスプレイの普天間配備はまさにその象徴ともいえよう。

 その声を私たちも真摯(しんし)に受け止めなければならない。政府はこれ以上の負担を押しつけるのではなく、配備の撤回を粘り強く米側に求めてもらいたい。

 ふに落ちないのは岩国に3機が残ったこと。うち2機は部品を取り寄せて交換するという。飛行もままならぬ欠陥機が陸揚げされていたのだろうか。

 森本敏防衛相が「具体的なトラブル内容は米軍から連絡がない」というのも首をかしげる。日本政府の「安全宣言」もおざなりだった証しとならないか。

 日米両政府はきちんと事情を説明すべきだ。普天間のゲート入り口に座り込む住民を排除しても何ら解決にはならない。

 野田佳彦首相は「本土への訓練移転を進めるなど、全国でも負担を分かち合っていく」と述べた。だが具体策は見えず、説得力は感じられない。

 むしろ今回の配備により普天間の危険性をクローズアップし、県内移設を進めるてこにする。それが日本政府の思惑に違いあるまい。

 しかし沖縄の県民世論は「あくまで県外」に傾いている。政府はそれを分かっていながら配備を容認し、地元無視だと県民が憤るのも予想していたのではないか。ここにきて「抑止力」の言葉を盛んに使って配備の正当性を強調しているからだ。

 政府が先月発表した安全宣言にも、その配備が海兵隊を含む在日米軍全体の抑止力を高める、とある。

 とはいえ専門家の間でも異論は少なくない。紛争地に部隊や装備を運ぶ機体である。尖閣諸島など離島防衛には不向きだ。

 確かにオスプレイは在日米軍の質的な変容を一段と進めるだろう。ヘリに比べ圧倒的に能力が強化され、米国の対外戦略にとって沖縄の拠点性は高まる。

 それを抑止力と呼ぶにしても、日本を防衛するという日米安保の本質とかけ離れてしまわないか。むしろ隣国が軍拡に走る口実を与えかねない。

 住民本位から程遠いことは、岩国にいた間の試験飛行でもみられた。「可能な限り水上を飛ぶ」とする日米合同委員会での取り決めに反し、市街地上空を飛んでいたとの目撃情報が相次いだ。

 野田首相はまず米軍側に、きちんと約束を守るよう申し入れるべきではないのか。

 オスプレイの沖縄配備については米紙ニューヨーク・タイムズも社説で「(県民の)傷口に塩を塗り込むものだ」と批判し、県外配備を求めている。

 日米両政府は内外、とりわけ沖縄県民の声に耳を傾け、配備の撤回と米軍基地の縮小に本腰を入れるときだ。

(2012年10月3日朝刊掲載)

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