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社説・コラム

社説 米大統領選 極端な主張ばかりでは

 米大統領選が1カ月後に迫った。オバマ大統領(民主党)と共和党のロムニー大統領候補による初のテレビ討論会は、内政をテーマに、まずは現職が防戦にこれ努めた印象である。

 オバマ氏は聴衆を奮い立たせる演説は得意だが、相手をやりこめる討論は苦手だという。共和党の指名争いを経たロムニー氏の方が今は手だれのようだ。

 事前の予想から一転、全米中継された討論会直後のCNNテレビは、世論調査で67%がロムニー氏優勢と答えた、と報じている。オバマ氏の「経済失政」を責め立てた印象がこの評価につながったのだろう。

 内政の中でも景気や雇用の回復は最大の争点である。

 米は1970年代以降、製造業が空洞化し、80年代のレーガン政権時代に新自由主義的な経済政策を推し進めて金融市場が肥大化した。その結果、市場の危機が起きるたびに金融政策で弥縫(びほう)する。一時は景気が回復したかに見えても貧富の格差が広がり、失業者は増え続けた。

 オバマ氏はブッシュ前政権が残したリーマン・ショックという「負の遺産」を強調し、その克服へ再選が必要だと訴えてきた。自動車産業復興への公的資金投入、金融市場の暴走への規制強化などを通じ、経済再建は途上である―と主張する。

 それでも景気や雇用の回復には十分功を奏していない。財政出動の効果が出ず赤字ばかり膨らむ現実に、不満を募らせる国民が目立つのもうなずけよう。

 ロムニー氏はそこを突き、「オバマ氏は4年前と同様、より大きな政府、支出、課税、規制を掲げている」と批判する。国民皆保険を目指す医療保険改革法も指弾するのだ。

 最近の世論調査によると「自分の面倒をみきれなくなった人は政府が面倒をみるべきだ」という「大きな政府」の考え方に賛成する人が、民主党支持者では75%、共和党支持者では40%と開きがある。

 ロムニー氏はオバマ政権に「小さな政府」を対置して争点を分かりやすくし、支持を固めようとしているのだろう。

 むろん、これから激戦州で軒並み逆転劇を演じなければならないが、予断を許さない情勢にはなってきた。

 だが、討論会では評価が上がっても、政策に具体性を欠くのは否めない。提案する減税の裏付けがそうだし、「小さな政府」をつくる痛みに処方箋はまだ出していないのではないか。

 こうした「両極化」の構図を選挙後にまで持ち込むことは好ましくない。

 年末までに米議会の民主、共和両党が個人所得の税率や歳出削減問題で合意しないと、自動的に急激な緊縮財政となり、米国経済に極めて悪い影響を及ぼすからだ。「財政の崖」と呼ばれる問題で、悪影響が世界に広がるのは必至である。両候補は心しておくべきだ。

 今後の討論会では外交がテーマになる。両候補は軍事費でも主張が異なるが、その動向は日本や中国を含む東アジアの安全保障に深く関わる。沖縄の米軍基地の在り方にも影響するだけに、日本としては注視したい。

 中東ではイランとの対立が続く。オバマ氏は経済失政への批判をイランへの強硬策でかわすような振る舞いだけは、断じて避けてほしい。

(2012年10月6日朝刊掲載)

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