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社説・コラム

社説 上関原発 免許延長申請 政府は地元を惑わすな

 山口県上関町での原発建設を目指す中国電力は「現状維持のため」と説明する。予定地の公有水面埋め立て免許の3年延長を県に申請した理由である。

 今年6月に本体工事に着手するはずだったが、福島第1原発事故を受け、準備工事の段階で中断した。現状維持とは、今後も建設を進める姿勢を明確にし、いつでも着工できる条件を整えておく意味合いであろう。

 電力会社としては当然の経営判断かもしれない。一方、山本繁太郎知事は「許可できない」と明言した。「原発ゼロ」を打ち出した政府のエネルギー戦略を踏まえれば、これも当然の判断といえよう。

 原発事故を目の当たりにし、世論は脱原発へと傾いている。着工か断念か、中ぶらりんのまま地元が一層疲弊していく事態は避けなければならない。

 中ぶらりんの最大の要因は、政府のあいまいさにある。

 枝野幸男経済産業相は上関原発の建設を認めない方針を明らかにした。国内の他の着工前の8基についても同様に「建設ノー」を宣告したことになる。

 それでもなお中電が「現状維持」を目指すのは、原発建設を支持してきた地元との関係を重視してのことだ。同時に、政府が唱える「原発ゼロ」の本気度をうかがっているともいえるのではないか。

 というのも政府は2030年代に原発をゼロにするとのエネルギー戦略はまとめたものの、閣議決定を事実上見送ったからだ。枝野経産相らが「認めない」と言っても、口先だけではと懐疑的に見る国民は多い。

 しかも、福島の事故から既に1年半余りたつ今も、上関町には国から原発新増設の方針について直接の説明はないという。

 さらに政府が建設を止める法的根拠はない。今後の総選挙の結果次第では、政府の方針が反転する可能性も否めない。

 地元からすれば、これ以上、翻弄(ほんろう)してもらいたくはない。ここは地に足を着けた現実的な視点で、建設の是非を見極めるしかないだろう。

 その判断材料の一つ、地元の意向については福島の事故以降、「地元」の意味が拡大したことを踏まえる必要がある。

 原子力規制委員会がこのほど示した災害対策指針案は、事故に備える防災対策重点地域をそれまでの半径10キロ圏から30キロ圏へと拡大した。圏内の自治体は大量の放射性物質が拡散する事態を想定し、事前に十分な対策を取らなければならない。

 上関から30キロ圏内にある光市の市川熙市長が「現状では賛成できない」とし、国の交付金も受け取らない意向を表明した意味は決して小さくない。

 事故時に影響を受ける電力消費地も「地元」に含まれると考えていいだろう。中電の7、8月の電力需給は、供給余力を示す予備率が9%以上を保った。火力発電をフル稼働できる態勢を整えた中電の努力に加え、消費者の節電意識が高まった。

 原発比率が低い中国地方だからこそ、再生可能エネルギーの普及に力を注ぐ余裕度も大きいといえないか。

 計画から既に30年の上関原発。町の人口は半減し、2人に1人は高齢者となった。もはや浪費する時間はないと考え、原発ゼロを前提とした地域づくりの青写真を描くときだ。

(2012年10月7日朝刊掲載)

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