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社説・コラム

『記者縦横』 原爆展 世界平和の礎に

■東広島総局 新谷枝里子

 中米ニカラグアが最初だった。以来8年間で55カ国を巡り、8月に100回に達した。広島県出身者を中心とする国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員たちが、それぞれの赴任地で開いた「原爆展」。運営を担った20、30代の若者は「日本人、広島出身者として生きることを強く意識した」という。

 原動力は何だったのか。初回の運営者の一員、小坂法美さん(35)に聞いた。ニカラグアに赴任した約50人のうち、広島県出身者が4人もいた。同国は1980年代に長い内戦があり、戦争の記憶が鮮明に残っていた―が企画した理由という。

 広島平和文化センターからパネルやDVDを借りて展示した。日本の場所を知らなくても広島を知っている人がいた。「自分なら報復する。なぜしない」と言われた。いまだに草木が生えていないと思っている人もいた。

 「使命感はもちろんだが、今の広島を通じ希望を伝えられるという喜びが大きかった」という小坂さんの言葉が胸に響いた。

 100回目を迎えた8月、米国が核兵器の性能を調べる新型核実験を強行した。オバマ政権では6度目だ。

 原爆展の開催地は全て発展途上国。最近まで戦争を経験していた国も多い。小さくても核兵器保有国にプレッシャーを与える動きが起きるかもしれない。

 原爆展100回の歩みを振り返る展示会が9日まで広島市南区の市留学生会館で開かれている。脈々と受け継がれる原爆展が、日本も含む各国で平和の礎になるよう願う。

(2012年10月8日朝刊掲載)

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