×

社説・コラム

社説 シェールオイル 次世代資源 光を当てよ

 秋田県由利本荘市の鮎川油ガス田は、地下約1800メートルの岩盤からシェールオイルの試験採取に国内で初めて成功した。石油は日本では古来、「臭水(くそうず)」と呼ばれた。この天然資源と日本人との関係に新たな一ページが加わるかもしれない。

 その名の通り、硬い頁岩(けつがん)(シェール)に眠る新型原油で、在来型の化石燃料に対し「非在来型」と呼ばれる。鮎川油ガス田では石油資源開発が2013年度にも新たな油井を試掘し、事業化の可能性を探るという。

 既にシェールオイルの生産が本格化している米国の原油生産はこのところ急増し、記録的な高水準を示す。「2017年までにサウジアラビアとロシアを抜き世界最大の産油国になる」という予測もあるという。

 日本でも今、国産資源にかつてなく関心が高まっているのは偶然ではない。福島事故以降の原発稼働停止によって、火力発電燃料の液化天然ガス(LNG)や原油の輸入が急増しているからだろう。そこにはイラン核開発疑惑をはじめ、緊迫の度を深める中東情勢のリスクがつきまとう。

 もっとも、シェールオイルにしても脱原発依存への道を切り開くにはハードルは高い。まずコストが問題で、地下に井戸を1本掘るだけで億単位の投資が必要である。常に中東の原油価格と横にらみで採算性が問われるだろう。

 環境問題も避けて通れない。採掘では塩酸などの化学物質を岩盤に注入し、原油が出る隙間をふさぐ石灰石を溶かすため、地下水汚染が懸念される。使用した塩酸は中和し産業廃棄物として処理しなければならない。このコストも無視できまい。

 しかも鮎川油ガス田の埋蔵量は日本の石油消費量の1日分強にすぎない。大きく転換する日本のエネルギー事情を背景に期待値は高いが、実力はいかほどか、というところだろう。

 ただし、シェールオイルの採掘は次世代型エネルギー資源開発の一歩と考えていい。最も注目されるのは、「燃える水」と呼ばれる天然ガスの一種、メタンハイドレートではないか。先月、島根から秋田までの10府県が海洋エネルギー資源開発促進日本海連合を設立し、要望書を経済産業省に提出した。

 日本近海の埋蔵量は天然ガスの国内消費量の約100年分ある。国はメタンハイドレートの海洋産出試験を太平洋側の東部南海トラフ海域で始めたが、同様の試験を日本海側でも促す動きだ。京都府北部沖海底での調査結果に好材料があるという。

 政府の総合海洋政策本部の有識者会議も、2025年までに自立した産業とする目標を打ち出した。新たな海洋基本計画に向けた中間報告に明記する。

 日本は掘削・探査の技術力は高い。中国地方でも海洋資源調査船「白嶺」が昨年、三菱重工業下関造船所で建造された。深海の異なる地形に対応できる2種類の掘削機器を備える。

 半面、事業化しても業界の国際競争力は弱く、ノウハウのある海外企業に依存せざるをえないとの予測もある。いずれは公的金融支援などで、国内企業をてこ入れする必要があるのかもしれない。海洋島嶼(とうしょ)国家日本の再生を念頭に置き、まずは国産資源や海洋資源に対し国民の関心を高めることが急務だろう。

(2012年10月12日朝刊掲載)

年別アーカイブ