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社説・コラム

社説 EUにノーベル平和賞 ならば核兵器の廃絶を

 欧州連合(EU)が今年のノーベル平和賞に決まった。

 世界が祝福のメッセージを送るべきところだが、とりわけ被爆地からすれば違和感が残る。核兵器を保有する国、配備されている国が現に存在し、その廃絶に向け地域が一枚岩になっているとは到底思えないからだ。

 各国の軍備に加え、強力な通常兵器を備えた北大西洋条約機構(NATO)軍も存在する。

 そもそも国家の連合体に平和賞が贈られること自体、意外だと言わざるを得ない。

 ノルウェーのノーベル賞委員会は「欧州の平和と和解、民主主義への貢献」を授賞理由に挙げている。

 確かに国家間の戦争の原因となるナショナリズムを薄めるには、国境を低くして普段から交流を活発にし、互いの信頼を高め合うことが一番だろう。

 2度にわたる世界大戦で戦場となった欧州。その悲劇を教訓に生まれたEUは、まずは通貨の統合を通じて「意識の中にある国境」を低くしようとしている。人類史上に例を見ない壮大な実験と呼ばれるゆえんだ。

 多国間の対話の枠組みもおぼつかないまま、国家間の信頼醸成に四苦八苦している東アジアにすれば、EUの取り組みに学ぶべきことが多いのも確かだ。

 だとしても今なぜEUに、しかも平和賞なのだろう。

 疑問符が付く大きな理由の一つは、域内に核兵器が存在すること。英国とフランスが保有し、米国の核も配備されている。いずれも廃絶・撤去の歩みは遅々としたままだ。

 東西冷戦はとうに終わった。これらは照準をどこに向けているというのか。

 核兵器が存在する限り、世界平和は脅かされる。授賞理由にある「欧州の平和」にもつながらないだろう。EU各国は一致して「核のない欧州」の実現に本腰を入れるべきだ。

 加えて、国家間の戦争よりも頻発する地域紛争やテロの恐怖におののく時代である。貧困や飢餓、宗教の対立など、暴力を生む要因をどう取り除いていくか。国境の壁をなくそうとするEUならではの平和構築策を見いだしてもらいたい。

 そもそもノーベル平和賞は、地雷の廃絶や貧困の撲滅など多大な貢献をした個人や団体が受賞してきた。それは、地域間の緊張を減らすのではなく、むしろ増大させがちな国家権力への警鐘でもあったはずだ。

 それが国家連合体であるEUに贈られる。壮大な実験を後押しすることが果たして、世界平和につながるだろうか。

 欧州の信用危機は一向に収まらない。しかも、支援に向けた域内各国の足並みはしばしば乱れがちである。

 ギリシャやスペインなど南部の国々とドイツやフランスなどの北部。広がる格差が結束の妨げとなっているのは明らかだ。

 債務超過国への金融支援だけで泥沼から抜け出るのは容易ではない。ここはEU域内の格差をどう解消するか。遠回りではあろうが、危機を収束させ、通貨統合の本来の果実を得るためにも、避けては通れない道となるはずだ。

 むろん欧州だけではない。全世界に広がる格差こそ、現代を不安定化させる大きな要因に違いない。その一掃に貢献して初めて、真に平和賞に値しよう。

(2012年10月13日朝刊掲載)

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