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社説・コラム

天風録  「10万年」

 10万年前の世界といえば氷河期。瀬戸内海は陸地で、ナウマンゾウが群れをなしていたらしい。今も海底からは牙や骨の化石が見つかる。ヨーロッパ大陸では教科書で習ったネアンデルタール人も暮らしていた▲気の遠くなるような年月に思い及んだのは、原発が出す核のごみの問題から。放射線量が自然界の水準に戻るには10万年かかるとされる。とても現実感の持てる話ではない。日本政府は地中深く埋める腹づもりだが一向に場所は見つからない▲さすがに科学者もこのままではまずいと思ったのだろう。日本学術会議が先頃、計画を白紙に戻すよう提言した。将来にわたる地震や火山活動を心配したためだ。あの大震災の後だけにうなずける▲埋め場所の苦労はどの国も同じだが、フィンランドは8年後に開始する目標という。記録映画が日本で公開された。心配は後々の人たちが誤って掘り返すこと。使う言葉は変わっているかもしれない。危険を伝えようとムンクの「叫び」のような絵で示す案もあるとか▲世界中で原発ゼロが成就したとしても、ずっと先までツケを回すと思えば気が重い。「核のごみの遺跡」を未来人は教科書にどう書くのだろう。

(2012年10月14日朝刊掲載)

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