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社説・コラム

社説 沖縄 米兵事件 綱紀粛正では済まない

 人間の尊厳を踏みにじる卑劣な行為である。米本国の海軍に所属する2兵士が集団強姦(ごうかん)致傷の疑いで逮捕、送検された。沖縄県で20代女性の首を絞め、乱暴したという。

 数日前から任務で訪れ、離日する直前の犯行だったらしい。女性は2人と面識はなく、歩いて自宅に帰るところを路上で襲われたというのだ。

 知人の力を借りて、女性は被害を届けた。勇気を振り絞ったのだろう。沖縄県警も直ちにそれに応えた。そのまま出国していたら、追跡は困難になったかもしれない。

 事件を受け、政府はルース駐日大使に米軍の綱紀粛正と再発防止の徹底を求めた。だが、そんな型通りの抗議で済まされるはずがない。

 折しも沖縄では、日米両政府への強い不信感が渦巻く。米軍普天間飛行場(宜野湾市)へ垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの配備を強行した問題だ。どんなに県民が「ノー」と言っても米側は一歩も引かず、日本政府は言いなりだった。

 しかも配備後は、日米で取り決めた安全策が守られていない。「米軍の施設および区域内に限る」などとしたヘリモード飛行が、配備から2週間で既に常態化しているという。

 そこへ今回の事件である。米軍のモラルの低さ、教育や統制の乏しさが露呈した。米本国の兵士がほんの数日の滞在で、このような事件を起こすこと自体が、米側の差別意識を物語ってはいないだろうか。

 それは、日本政府も同じなのかもしれない。米軍基地が存在する理由は「日本の防衛やアジア太平洋地域の平和と安全に寄与する抑止力」というが、一方で沖縄に基地を集中させ、負担を押しつけてきた。

 軍用機が日々、住宅地の上空を飛び交う危険性。それに加え、米兵による犯罪が県民を脅かす。本土復帰後の米軍関係の犯罪検挙数は5700件余りにも上るという。

 沖縄の人々は地道な闘いを続けてきた。1995年の3米兵による少女暴行事件で県民が立ち上がる。日米地位協定でかなわなかった、起訴前の身柄引き渡しを可能にした。

 反基地運動のうねりはさらに高まり、日米両政府を負担軽減のための話し合いの席に着かせる。そうして、普天間返還で合意した経緯がある。

 米兵による犯罪への心配は岩国など米軍基地を抱える地域に共通する。対等な関係を築くためにも、政府は米国に具体的な申し入れをすべきではないか。

 まずは米兵の夜間外出制限など、規律強化を求めたい。そして、成果が確認できるまではオスプレイの訓練自粛を約束させるべきだ。米軍への不信が募る一方では、前に進めてはならないだろう。

 また起訴前の身柄引き渡しについては、地位協定の抜本的見直しが欠かせない。現状は殺人や強姦など凶悪な犯罪が基本で、あくまでも米側の「好意的考慮」に基づく。理不尽で不平等な規定は、米兵の犯罪を助長させるだけではないか。

 「重く受け止めている」と口では言い、結局は軽くあしらう。政府のそんな対応はもう許されない。沖縄の痛みを日本の問題として捉え、米側に毅然(きぜん)と主張する姿勢が求められる。

(2012年10月18日朝刊掲載)

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