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社説・コラム

天風録 「3・11と山口県美展」

 芸術とは「生きることそのもの」と語った岡本太郎。強烈に生きてこそ、全身全霊が宇宙に向かって開く。流行語大賞にもなった「芸術は爆発だ」の意味を、こう述懐している▲この言葉を思い出したのも、失礼ながら、これが芸術だろうか、と一瞬思ったから。21日まで開かれている山口県美展の大賞作品。大破した車2台が反対方向を向き鎖でつながる。荷台はごみの山。決して美しくはない▲「それでいいんです、何だろうと考えてもらえれば」。制作した光市の田中径さん(72)は高校の元国語教諭。空間造形を20年余り手掛ける。きっかけはチェルノブイリ原発事故だった。声高にではなく警鐘を鳴らせないか、と▲しかし世界を揺るがす原発事故はこの国で起きた。無力感。芸術には押しとどめる力がないのか。自問自答し、たどり着いたのが「できることをやる」。2人の教え子と創造のハンマーを振るった▲被爆者でもあった作家、殿敷侃(ただし)がかつて古タイヤ数千本をぶちまけ環境破壊を告発した山口県立美術館。今、立ち往生する車が暗示するのは3・11後の日本の姿か。悲しいかな、見ているうち脳裏に浮かぶのは爆発は爆発でも原発の水素爆発…。

(2012年10月19日朝刊掲載)

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