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社説・コラム

『潮流』 真の友とトモダチ

■論説委員 金崎由美

 片仮名で「トモダチ」といえば、東日本大震災の直後に米軍が展開した緊急支援作戦を思い起こす。

 防衛白書の漫画版は「真の友」という1章を割き、貢献への謝意を表した。仙台空港近くの砂浜には、上空の米軍機から見えるようにだれかが流木を並べて「ARIGATO(アリガトウ)」の文字。米軍はいたく感動したという。

 いまや日米の絆を表すキーワード。米国政府は、被災地の若者の交流事業「トモダチ・イニシアティブ」も主導する。

 「真の友」と重なる「トモダチ」。実は別の意味もあるようだ。

 元政府高官らが最近、日米同盟に関する報告書を発表した。トモダチ作戦を「憲法9条の解釈を緩和し、集団的自衛権の問題に留意せず自衛隊と活動できた」と評価。戦時も含めた協力体制を唱える。米連邦議会の調査局も報告書で「自衛隊のヘリコプターが危機対応で米空母を利用した初のケース」と記す。

 米国と一体になって軍事行動ができる国。それがトモダチらしい。

 岩国からオスプレイが配備され、わが物顔で住民の頭上を飛ぶ沖縄。今度は米兵2人が卑劣な性暴力を振るった。最初、被害女性に「アリガトウ」と声を掛けながら近づいたという。

 地元は怒り、在日米軍に多大な権限を認めた日米地位協定の改定を訴える。当の日本政府は、米国が他国と結ぶ協定とのバランスを欠くとして後ろ向きだ。

 だが、取り決め自体は決して一律でない。例えばドイツとイタリアの米軍基地に対する管理権は、日本よりはるかに強い。結局、米国と渡り合う気があるかどうかである。

 個人同士ならば、時に苦言も呈すのが真の友。国同士ではどうか。米国の意向を自国民に伝言する役回りでは、相手に好都合のトモダチでしかない。

(2012年10月20日朝刊掲載)

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